要点
インパーマネントロスは、流動性プールに預けたトークンペアの価格比率が預け入れ時点から変動したときに発生します。
この変化が大きいほど、単にトークンを保有(HODL)している場合と比べて潜在的な損失が大きくなります。
つまり、DeFiのプールに流動性を提供することで損失が発生することを意味します。自動マーケットメイカー(AMM)と呼ばれる特殊な市場の設計上の特徴がこの原因です。
流動性プールへの流動性の提供により利益を得ることができる可能性があるものの、インパーマネントロスの概念を理解しておかないと損失を被る可能性があります。
はじめに
分散型金融(DeFi)プロトコルでは、取引量と流動性が爆発的に増加しています。DeFiでは、資金を持つ誰もがマーケットメーカーとなり、取引手数料を獲得できます。マーケットメイキングの民主化によって、暗号資産分野では障壁のない経済活動が数多く可能になりました。
これらのプラットフォームで流動性を提供する前に、知っておくべきこと最も重要な概念のひとつに、「インパーマネントロス」があります。この記事では、この概念について解説します。
impermanent lossとは?
インパーマネントロスは、流動性プールに預けた資産ペアの価格比率が預け入れ時点から変動したときに発生します。
この変動幅が大きいほど、インパーマネントロスのリスクは高まります。リスクとは具体的に、引き出す際に受け取る資産のドル換算価値が、単に資産をプールの外で保有していた場合よりも減少する可能性がある点になります。
同じ通貨にペッグされたステーブルコインや、異なるラップドコインなど、価格比率が比較的安定している資産を含むプールではインパーマネントロスのリスクが低い傾向にあります。ただし、ステーブルコインでもディペッグが発生する可能性があり、その場合は一時的にリスクが高まります。
このようなリスクがあるにもかかわらず、流動性プロバイダー(LP)が参加する理由は、流動性提供によって得られる取引手数料がインパーマネントロスを相殺、あるいは完全に補填することが多いためです。
例えば、Uniswapでは取引ごとに手数料が発生し、その手数料は直接流動性プロバイダーに支払われます。十分な取引量があれば、インパーマネントロスのリスクがあるプールに流動性を提供しても、徴収した手数料が上回ることで利益を残せます。
変動損失の仕組み
以下、流動性提供者視点での変動損失の例を説明していきます。
鈴木さんが1 ETHと100 USDCを流動性プールに預け入れたとします。この自動マーケットメイカー(AMM)では、預け入れ時点でのトークンペアは互いに等しいドル相当価値で預け入れます。したがって、この例では1 ETHの価格が100 USDCであり、鈴木さんの預け入れ合計は200ドルになります。
さらに、プール全体には他の流動性プロバイダー(LP)からの資金も併せると、合計10 ETHと1,000 USDCが存在します。したがって、鈴木さんはプールの10%のシェアを持つこととなり、プールの総流動性は10,000ドル相当になります。
ここで、ETHの価格が400 USDCに上昇したとします。この間、アービトラージ取引によりプールにはUSDCが追加され、ETHが引き出され、トークンペアの比率が現在の価格を反映するまで調整されます。なお、AMMにはオーダーブックが存在せず、価格はプール内のトークンペアの比率が決めます。
AMMはリザーブ(プール内残高)の積(x × y = k)を一定に保つため、プール内の数量は価格変動に応じて調整されます。現在、アービトラージ取引により、プールには約5 ETHと2,000 USDCが存在しています。
鈴木さんが自身の10%のシェアを引き出すと、0.5 ETHと200 USDCを受け取ることになります。これらの合計は400ドル相当となります。最初の200ドルの預け入れから資産価値が100%増加したことになり、見事な成果と言えます。しかし、もし鈴木さんが当初の1 ETHと100 USDCを単純に保有していた(プールに預け入れなかった)場合、現在の価値は500ドルになっています。
つまり、鈴木さんは流動性プールに預けるよりも、ホドルしていた方が得だったことになります。これがインパーマネントロスと呼ばれるものです。この損失がインパーマネント(一時的)と呼ばれるのは、ペアの価格比率が以前の状態に戻れば、損失が消滅するためです。
なお、この例では取引手数料は考慮していません。流動性の提供によって得られる手数料収入が、この損失を相殺し、利益をもたらすこともあります。しかし、インパーマネントロスは大きな損失(元本のかなりの部分を含む)につながる可能性があることは捨て置けない事実です。
変動損失の推定
変動損失はプール内の資産の価格が変動した時に発生することをここまで説明しました。正確な額は、変動損失をグラフで表すことで把握できます。ただし、このグラフでは、流動性提供によって得られる手数料は考慮していません。
以下は、グラフからわかる、ホドル(能動的な運用ではなく、保有しつづけること)することと比較した時の損失のまとめになります。
1.25倍の価格変動 = 約0.6%の損失
1.50倍の価格変動 = 約2.0%の損失
1.75倍の価格変動 = 約3.8%の損失
2倍の価格変動 = 約5.7%の損失
3倍の価格変動 = 約13.4%の損失
4倍の価格変動 = 約20.0%の損失
5倍の価格変動 = 約25.5%の損失
インパーマネントロスは、価格が上昇しても下降しても発生します。インパーマネントロスは、預け入れ時点の価格比率が変化することで確実に発生するのです。
AMMに流動性を提供するリスク
「インパーマネントロス」との用語は、誤解を招くことがあります。「インパーマネント(一時的)」とは、トークンをプールに保持している限り損失が確定しないことを意味しています。運が良ければ価格比率が元に戻ることもありますが、一度資産を引き出すと、その時点で損失が確定してしまいます。
流動性供給中に得られる取引手数料がこの損失を相殺もしくは上回る場合もありますが、リスクを事前に認識することが重要です。最初から大きな額を預けるのは控え、まずは少額で始めてリターンとリスクを十分に評価するのが良いでしょう。
また、プール内の資産のボラティリティ(価格変動の激しさ)も考慮してください。ボラティリティが高いペアほど、インパーマネントロスのリスクが高くなります。
最後に、信頼できる実績のあるAMMを選択すべきです。DeFiプロトコルはフォークや変更が容易なため、監査を受けていない新しいAMMにはバグが発生したり資金がロックされるリスクがあります。極端に高いリターンを約束するプールはリスクが高い可能性があるため、注意が必要です。
リスクの軽減
最新のAMM設計では、集中流動性やステーブルコインに最適化されたプールなど、インパーマネントロスのリスクを軽減する機能が提供されています。また、ペアではなく単一資産の流動性提供といった選択肢も登場しています。これらの方法により、一般的なリスクを軽減できます。
まとめ
AMMへの流動性提供を検討する際、インパーマネントロスは理解しておくべき基本的な概念の一つとなります。端的にまとめると、預けた資産ペアの価格比率が預け入れ時点から変動すると、流動性プロバイダーにはインパーマネントロスのリスクが生じます。
関連記事
免責事項:このコンテンツは、一般的な情報および学習機会の提供目的でのみ「現状有姿」で提供するもので、いかなる種類の表明または保証もありません。投資、法律、またはその他の専門的なアドバイスとして解釈されるべきではなく、特定のプロダクトやサービスの購入を推奨するものでもありません。適切な専門アドバイザーから独自のアドバイスを求める必要があります。こちらで紹介しているプロダクトは、お住まいの地域ではご利用いただけない場合があります。記事が第三者の貢献者によって寄稿されたものである場合、表明された見解は第三者の貢献者に属し、必ずしもバイナンスアカデミーの見解を反映するものではありません。詳細は、免責事項全文をお読みください。デジタル資産価格は、大幅に変動する可能性があります。投資価値が上下する可能性があり、投資した金額を取り戻すことができない場合があります。投資決定についてはお客様が単独で責任を負い、バイナンスアカデミーはお客様が被る可能性のある損失について責任を負いません。この資料は、投資、法律、またはその他の専門的なアドバイスとして解釈されるべきではありません。詳細は、利用規約およびリスクに関する警告をご参照ください。