ステーブルコインがディペッグする理由
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ステーブルコインがディペッグする理由

ステーブルコインがディペッグする理由

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公開済 Oct 26, 2023更新済 Jan 11, 2024
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概要

  • ステーブルコインは、「ペッグ」メカニズムにより安定した価格が維持されています。

  • ステーブルコインには、担保付きもの(法定通貨、暗号資産、またはコモディティに裏打ちされた)と、担保なしのもの(アルゴリズムによって制御されている)があります。

  • 2022年のUST、2023年のUSDCとDAI、2023年のUSDRなどで見られたディペッグの歴史的事例は、ペッグ維持の脆弱性と複雑さを象徴しています。

ステーブルコインのペッグとは

ステーブルコインは、比較的安定した価値を持つように設計されたタイプの暗号資産です。暗号資産は通常、その価格が変動しやすくなっていますが、ステーブルコインは価格変動に対するヘッジを目的に特別に作られたものです。

ステーブルコインは、「ペッグ」により安定性を維持します。「ペッグ」とは、価値の錨(いかり)のようなものです。自国の通貨の価値を他国の通貨と結びつけ安定させる国があるように、ステーブルコインも似たことをしています。USDTやDAIなど多くのステーブルコインは、1ドルに等しい価値の維持を目的としています。

ステーブルコインのディペッグによる影響

ステーブルコインがあらかじめ決められたペッグ値で取引されなくなることを、「ディペッグ」(ペッグが外れること)と呼びます。長年にわたり、ステーブルコインは計り知れない有用性を見出し、今日1日の取引高は数十億ドルに達しています。

そのため、ディペッグは広範囲に影響を及ぼす可能性があります。この記事の後半では、ステーブルコインのディペッグの歴史的な事例を見ていきます。その前に、ステーブルコインがどのようにペッグを維持しているのかを見てみましょう。

ステーブルコインによるペッグ維持の仕組み

ステーブルコインは通常、担保型と非担保型の2つに分類されます。

1. 担保型ステーブルコイン

現在流通しているほとんどのステーブルコインは担保付きステーブルコインで、その価値は他の資産によって裏付けられています。これらのステーブルコインは、法定通貨、他の暗号資産、または金のようなコモディティによって裏付けまたは「担保」されていることになっています。理論的には、発行されたステーブルコインはすべて裏付けとなる資産が準備されていることになります。

その仕組みは、以下のようになります。

  • 法定通貨担保型:流通しているすべてのトークンが、米ドルなどの法定通貨と同等の数量によって裏付けされるとされています。そのため、発行されたステーブルコインは、必要に応じすべて原資産に償還できることになります。ス法定通貨担保型のテーブルコインの例には、FDUSDやUSDTが挙げられます。

  • 暗号資産担保型:このタイプのステーブルコインは、暗号資産または複数の暗号資産のバスケットによって過剰担保されています。つまり、ステーブルコインの価値よりも多くの暗号資産が担保として保有されていることを意味します。過剰担保は、潜在的な担保資産価値の価格変動に対するバッファ(余裕)となります。暗号資産担保型ステーブルコインの例に、DAIとcrvUSDが挙げられます。

  • コモディティ担保型:これらのステーブルコインは、金(ゴールド)などのコモディティ(商品)価格に対し固定されています。これらのコインは、インフレに対するヘッジ、およびコモディティへの投資機会となり得ます。コモディティ担保型ステーブルコインの一例としてPax Gold(PAXG)が挙げられ、同暗号資産は金をその価値の裏付けとしています。

備考:ステーブルコインプロジェクトは、頻繁にその準備金やペッグの仕組みについて説明しています。しかし、その検証可能性と正確性は様々です。従って、実際の担保レベルは必ずしも100%説明されている通りではない可能性は捨て置けません。

2. 非担保型ステーブルコイン

アルゴリズム型ステーブルコインとも呼ばれる非担保型ステーブルコインでは、コード化されたアルゴリズムとスマートコントラクトを用いています。市場の需要に基づいて供給を自動調節し、ステーブルコインの価格がペッグ先の資産の価値に近い状態を維持することの保証を目指しています。

ステーブルコインが連動しようとする法定通貨の価値を下回った場合、アルゴリズムが循環供給量を減らし、価格を押し上げようとします。一方、価格が法定通貨の価値を上回ると、ステーブルコインの価値を下げるために新しいトークンが流通させられます。アルゴリズムによるステーブルコインの例には、TerraUSD(UST)がありました。

では、これらのステーブルコインがペッグを失い、市場価値よりも低い価格で取引されるようになるケースについて、いくつかの例を元に解説していきます。

ステーブルコインにおけるディペッグの歴史的事例

ステーブルコインにおけるディペッグで最も悪名高い事件となった事例を、以下の通り挙げていきます。

2022年5月 - UST

2022年5月、暗号資産業界では、TerraのUSTステーブルコインのペッグが外れる歴史的な出来事を経験しました。この事件が起こる前、TerraのネイティブトークンであるLUNAは時価総額400億USDを誇る世界第8位のコインでした。このディペッグにより、USTとLUNAは事実上無価値となり、Terraおよび関連する数多くの暗号資産プロジェクトやビジネスが大きな損失に直面する連鎖反応、「暗号資産暴落の伝染」が引き起こされました。この不安定な時期に、TronのUSDDやNear ProtocolのUSNなどの他のステーブルコインも一時的にペッグを失ったものの、その後元の水準に戻っています。

2023年3月 - USDCとDAI

2023年3月、米国の銀行3行、Silicon Valley Bank(SVB)、Signature Bank、Silvergate Bankの破綻により、USDCとDAIの2つの主要なステーブルコインがディペッグを起こしました。USDCの発行元であるCircle社は、ステーブルコインの担保である現金準備金のうち33億ドルがSVBに保有されていたことを明らかにしました。その結果、USDCは一時的にペッグを失い、1日で12%以上下落しました。

また、DAIでも、当時担保準備金の半分以上がUSDCとその関連商品に結びついていたため、価値の変動に見舞われました。米連邦準備制度理事会(FRB)が銀行の債権者への支援を発表したことで状況は安定し、USDCとDAIの価格は再びペッグを取り戻しました。

事件後、両ステーブルコインは準備金の構成を調整しました。USDCは主にBank of New York Mellonに現金での準備金を預け入れ、DAIは複数のステーブルコインに準備金を分散しさらに現実世界の実資産の保有を増やしました。

2023年10月 - USDR

USDR(Real USD)は、Tangible(ネイティブトークンTNGBL)が2022年にローンチしたステーブルコインです。トークン化した不動産とDAIステーブルコインを組み合わせて担保とし、USDペッグのステーブルコインとして設計されました。

USDRはまた、テナントから徴収した賃貸利回りの半分が自動的に基金に送金される自動再担保の仕組みを兼ね備えていました。この仕組みが、ペッグの安定化メカニズムとして機能するはずでした。こうした安定策にもかかわらず、USDRでは2023年10月11日にディペッグが発生しました。

事態の経緯は次の通りです。

  • 10月11日、USDRで償還請求が殺到し、最終的に1,000万USDRに達しました。

  • この莫大な償還要求により、USDRの基金から流動性のあるDAIステーブルコインの準備金すべてが流出しました。

  • 残りの担保は流動性の低いトークン化された不動産準備金であったため、償還要求に即座に応えられませんでした。

  • この突然の流動性ひっ迫は、USDR保有者の間で大きなFUD(不安)を引き起こし、コインの価値の下落につながりました。

暗号資産リサーチャーやUSDRコミュニティのメンバーによると、USDRが担保として使用したトークン化不動産はERC-721トークン規格を採用しており、一般的に使用されているERC-20ほど柔軟ではないとされます。ERC-721トークンは簡単に分割できないため、適時の償還が難しくなります。

まとめ

価格変動の激しい暗号資産の世界では、ステーブルコインが約束する安定性は投資家にとって重要性の高い安全な避難所の役割を持っています。しかし、歴史が示すように、これらのステーブルコインも試練とは無縁ではありません。USTやUSDRの大規模なディペッグ事件は、外部からの財務的圧力や設計上の欠陥の影響を受けやすいことを示しています。リスクを負う前に、金融市場のあらゆる投資対象に対し自分自身で徹底的に調査することが大切となります。

参考文献


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