概要
ヘッジとは、個人または組織が損失の発生の可能性を相殺するために取るリスク管理戦略です。
一般的なヘッジ方法には、先物やオプション契約、差金決済契約(CFD)、永久スワップ契約などがあります。
ヘッジ戦略には、それぞれリスクとコストが伴います。ヘッジ戦略を実践する前に、カウンターパーティーリスクや規制リスクなど、様々なリスクを検討する必要があります。
ヘッジとは
ヘッジとは、個人または組織が損失の発生の可能性を相殺するために取るリスク管理戦略です。
この考え方は、保険に加入するのと似ています。洪水が起こりやすい地域に家を所有している場合、洪水保険に加入して、その資産を洪水のリスクから守ることになります。金融市場や暗号資産市場でも、同じようにヘッジは機能します。暗合資産では、発生する不利な値動きリスクの軽減を狙います。
ヘッジの仕組み
ヘッジ方法には様々なものがありますが、一般的には以下のような手順で行います。
手順1: 主要ポジションを建てる
BitcoinやEtherなど、特定の資産に既存のポジションを保有します。暗号資産を所有しているか、その価格に対し(先物、オプションなどで)エクスポージャーがある場合がこれに該当します。
手順2: リスクを特定
次に、主要ポジションに関連するリスクを特定します。例えば、Bitcoin所有におけるリスクは、その価格の下落となります。
手順3: カウンターポジションを保有
特定したリスクとは逆方向に動くと予想される関連商品のポジションを取ることで、リスクをヘッジすることができます。
ヘッジの目的は利益を上げることではなく、損失から身を守ることです。ヘッジポジションの利益により、主要ポジションからの損失を相殺を狙います。完璧にヘッジできることは、めったにありません。また、ヘッジにはコストがかかることが多いため、ヘッジの費用対効果の考慮も必要です。
暗号資産におけるヘッジの仕組み
暗号資産におけるヘッジは、従来の金融市場におけるヘッジと同じ原則に従って行います。主要ポジションの反対方向に動くと予想される関連資産のポジションを取ることなどが該当します。
ここでは、暗号資産市場でヘッジが可能な7つの方法を紹介します。これらの一部またはすべては、一部の法域では利用できない場合があります。採用するヘッジ戦略が現地の規制に準拠していることを確認するようにしてください。
これらの戦略にはそれぞれリスクとコストが伴うため、事前に理解しておきましょう。
先物契約
暗号資産の先物取引とは、将来の特定の日に事前に決められた価格で暗号資産を売買するものです。潜在的な価格変動をヘッジするために、この戦略を採用できる可能性があります例えば、Bitcoinを保有しており、その価格が下落する恐れがある場合、Bitcoinの先物契約で売り注文を行います。
オプション契約
暗号資産オプション取引では、特定の期間内に設定された価格で原資産である暗号資産を購入(コールオプション)または売却(プットオプション)する権利(義務ではない)をが得られます。Bitcoinを保有し、価格の下落を心配しているならば、プットオプションを購入します。Bitcoinの価格が下落した場合、プットオプションの価値は上昇し、Bitcoinの価値の損失を相殺することになります。
差金決済取引(CFD)
CFDは、暗号資産へのエクスポージャーのヘッジツールとして使用できます。CFDは、原資産を実際に所有することなく、原資産の値動きに対して投機を行うデリバティブ商品です。通常、ブローカーと契約を締結し、契約開始から終了までの資産価格の差額を取引します。
例えば、Bitcoinを保有しており、価格の下落をヘッジしたい場合、Bitcoin CFDのショート(売り)ポジションを建てることになります。価格が下落した場合、CFDポジションで得た利益は保有するBitcoinで生じた損失を相殺することになります。
永久スワップ契約
永久スワップ契約は、Bitcoinなどの原資産の価格が推移する中、満期のない継続的な取引機会の提供を目的としています。通常はレバレッジを利用するため、少ない当初証拠金で大きなポジションを建てることができます。
例えば、Bitcoinの価格下落が予想される場合、Bitcoin永久スワップ契約のショートポジションを建てます。Bitcoinの価格が下落した場合、永久スワップ契約の利益がBitcoinの損失を相殺することになります。
空売り
プラットフォームによっては空売りが可能で、暗号資産を借りて売り、後で買い戻して返すことができます。予想通りに価格が下がれば、利益が発生し他の投資の損失を相殺することができます。
ステーブルコイン
ステーブルコインとは、価格が資産準備金(通常は法定通貨)にペッグされている暗号資産です。市場の低迷が不安視される場合、不安定な暗号資産の一部をステーブルコインと交換することも考えられます。市場の上昇相場からは利益を得られないものの、下落相場では資産を守ることができます。
多様化
さまざまな暗号資産を保有し、分散投資することもヘッジとして機能します。暗号資産銘柄ごとに、市場の変化に対する反応が異なる可能性があるためです。ある暗号資産の価値が下落すれば、別の暗号資産の価値が上昇し、その損失を相殺することもあり得ます。
例:Bitcoinポジションのヘッジ
例えば、10,000ドル相当のBTCを所有しており、その価格が下落する可能性があるため、ヘッジしたいとします。ポジションをヘッジするために、次のような方法が検討できます。
Bitcoinが現在50,000ドルで取引されているとします。将来の日付でBitcoinを50,000ドルで売却する権利であるプットオプションの購入を検討します。そして、このオプションに500ドルのプレミアム(保険加入費用に相当)を支払うとします(実際の価格は市場の状況によります)。
Bitcoinの価格が40,000ドルに下落した場合、オプションの権利を行使してBitcoinを50,000ドルで売却し、損失を大幅に減らすことができます。このヘッジにおけるコストは、オプション購入に支払ったプレミアムとなります。この例では、ポートフォリオをカバーするために、0.2BTCが必要となります。コストは、0.01 BTC($500÷$50,000)となります。
あるいは、Bitcoinの先物契約で売り注文を行うこともできます。0.2 BTCで先物契約の売り注文を行い、1ヶ月にBitcoinを50,000ドルで売却することに合意したとします。Bitcoinの価格が40,000ドルに下落した場合、契約により低い価格で0.2 BTCを購入することで、実質的に50,000ドルでBitcoinを売却したこととなりポートフォリオの損失を相殺できます。ただし、Bitcoinの価格が上昇した場合、50,000ドルで売却する義務を負い、価格上昇による利益を逃す可能性があります。
暗号資産ヘッジのリスク
ヘッジ戦略には一般的にリスクとコストが伴います。オプションのプレミアムは高額になる可能性があり、先物は潜在的な利益を制限する可能性があります。ステーブルコインの安定性も、発行者の支払能力に依存しています。分散投資はリスクを分散できるものの、必ずしも損失を防ぐことはできません。
ヘッジを実施する前に、忘れずに、以下のリスクを考慮してください。
コスト
ヘッジには通常、コストがかかります。例えば、オプション購入にはプレミアムの支払いが必要であり、市況によっては多額のコストがかかります。同様に、先物契約にはブローカー手数料やその他の手数料がかかります。
利幅の限界
ヘッジ戦略では、発生し得る利益が制限されることが多くなります。例えば、価格下落のヘッジに先物契約を行ったが価格が上昇した場合、利益は先物契約価格によって抑え込まれます。
カウンターパーティリスク
カウンターパーティーリスクは、OTC経由でのデリバティブ商品や、ヘッジ手段としてステーブルコインを使用する場合に特に重大になります。カウンターパーティー(取引相手)が契約の履行を怠った場合、損失が発生する可能性があります。ステーブルコインの場合、発行元が原資産とのペッグを維持できなくなるリスクが存在します。
執行リスク
ヘッジ戦略には、市場の状況によって期待通りに機能しないリスクが存在します。例えば、ボラティリティの高い市場では、値動きが極端になり、オプションや先物から期待された保護が得られない可能性もあります。
規制リスク
暗号資産および関連金融商品の規制環境は変化しており、法域によって異なります。規制の変更により、特定のヘッジ手段の価値や利用可能性に影響がある可能性があります。ご自身の地域の規制要件を十分に理解し、常にコンプライアンスを遵守してください。
流動性リスク
ヘッジ商品の中には、流動性が低いもの、つまり価格に大きな影響を与えることなく売買することができないものがあります。このため、ポジションへのエントリー(購入)やエグジット(売却)が困難になることがあります。
複雑さ
最後に、ヘッジ戦略は複雑なものとなる場合があり、特にレバレッジを利用したものに関し金融市場に対する深い理解が必要となります。間違いや誤解から、大きな損失につながる可能性があります。
暗号資産でのヘッジ戦略のヒント
ヘッジ戦略は複雑であり、金融市場での深い知識が必要になります。初心者向けではないことは確かであり、経験豊富なトレーダーでもヘッジを行う際には慎重になる必要があります。ここでは、暗号資産でヘッジ戦略を利用する際のヒントをいくつか紹介します。
リスクの理解
ヘッジ戦略を実行する前に、関連するリスクと潜在的な悪影響を十分に理解してください。すべての金融商品と戦略には長所と短所があり、始める前に自分が行おうとしていることが何であるかを知ることが非常に重要になります。
分散投資
すべての卵を1つのカゴに盛らないようにしてください。様々な暗号資産に投資し、さらには異なる資産クラスに分散投資することも検討してください。こうすることで、特定の資産のボラティリティから身を守ることができます。
プロセスを複雑にしすぎない
利益を最大化したり、損失を最小化しようとして、複雑なヘッジ戦略を使いたくなものです。しかし、複雑さによりさらなるリスクがもたらされることも多いのです。洗練された投資家でなければ、通常は単純な戦略の方が良いでしょう。
まとめ
ヘッジは、効果的に使えばポートフォリオへの潜在的な損失を相殺するのに効果的であるものの、ヘッジには深い知識が必要となり、誰にでもできるものではありません。ヘッジ戦略を利用する際には、取引条件、必要証拠金、手数料、レバレッジオプションを慎重に検討する必要があります。
関連するリスクと潜在的なコストをしっかりと理解しておきましょう。市場の状況を継続的にモニタリングし、ポジションを常に調整しながら、リスクへの露出(エクスポージャー)を管理する必要があります。
また、ストップロス注文などのリスク管理ツールを使用して、潜在的な損失を限定したり、利益を確保することも必要です。最後に、これらの取引に取り組む前に、財務アドバイザーの指導を受けることをご検討ください。
参考文献:
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