バイナンスのアルゴ取引:ケーススタディ

バイナンスのアルゴ取引:ケーススタディ

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更新済 Aug 18, 2025
7m

要点

  • アルゴ取引とは、コンピュータープログラムを使用して、事前定義された戦略に基づいて取引を自動的に執行することを指します。バイナンスでは、TWAPとPOVの2種類のアルゴ取引を提供しています。

  • TWAPは、指定期間内で取引を均等に分散させて取引する方法です。一方のPOVは、事前設定された市場取引量の割合に基づいて取引を執行する方法です。

  • アルゴ注文では、特に大口取引や流動性の低い資産において、スリッページや市場への影響を軽減できます。一方、流動性の高い資産を小口で取引する際は、既存の成行注文の方が効率的な場合もあります。

  • 取引規模、資産の流動性、アルゴリズムの設定は、注文結果や執行の質に影響を与えます。例えば、期間や指値価格の設定などを適切に設定することで、アルゴ注文の効果を向上できます。

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はじめに

アルゴ取引は、コンピューターアルゴリズムを用いて取引手続きを自動化するもので、注文執行方法を一新するものとなりました。バイナンスでは、主に2種類のアルゴ注文、すなわち時間加重平均価格(TWAP)と出来高比率(POV)を用意しています。これらのツールを活用することで、特定の戦略に基づき、市場への影響やスリッページを最小限に抑えながら注文を執行できます。

この記事では、資産の流動性、取引規模、アルゴリズムの設定など、さまざまな条件下でアルゴ注文と既存の成行注文を比較しながら、いくつかのケーススタディを取り上げ、その機能について詳しく分析します。

TWAPとPOVとは

時間加重平均価格(TWAP)

TWAP戦略は、指定された時間枠内で取引を均等に執行します。例えば、1時間のTWAPでは、その1時間の間に取引数量を均等に分割して執行することを目指します。この戦略は、大口注文を時間的に分散させることで市場価格への影響を最小限に抑えます。

全取引量比率(POV)

POV戦略は、事前に設定した市場取引量の割合に基づいて取引を執行します。例えば、特定の時間枠内で市場全取引量の10%を目標に取引を執行するアルゴリズムを設定できます。この戦略では、市況に合わせて執行比率を調整し、市場への影響を最小限に抑えられます。

ケーススタディ概要

アルゴ注文が従来の成行注文と比較してどの程度優位性を持つかを把握するために、バイナンスでの実際の約25,000件のアルゴ取引の過去データを匿名化して参照しました。本調査では、アルゴ注文と既存の成行注文のスリッページ(予想執行価格と実際執行価格の差)をベンチマークとして比較しています。

表中のEdge(エッジ、優位性)は、アルゴ注文とベンチマークのパフォーマンス差を示します。例えば、エッジが+0.01%であればほとんど差がなく、-1%であればアルゴが劣っていることを示します。逆に+1%の場合、大きなメリットをもたらしていることを意味します。

備考:このケーススタディは、バイナンスの匿名化された過去の執行データを一定期間にわたり分析したもので、一般的な取引動向を例示することを目的としています。将来の取引執行の質やパフォーマンスを保証するものではありません。

ケース1:全体の概要

アルゴ取引の種類

すべての取引規模、資産の種類、期間(TWAP戦略の場合)における全体のスリッページを平均すると、以下の結果が得られました。TWAPの場合、ベンチマーク(市場注文)のスリッページは-0.17%、アルゴ実行のスリッページは-0.18%でした。POVの場合、ベンチマークのスリッページは-2.37%、アルゴ実行のスリッページは-0.56%でした。

全体として、データはTWAPで-0.01%、POVで+1.81%のエッジを示しています。エッジとは、ベンチマークとアルゴのパフォーマンス差を単純に示したものです。

TWAPとPOVの比較

資産の種類

資産の種類では、BTCとETHを流動性の高い資産とし、ステーブルコインを除くその他の資産を流動性の低い資産と定義しました。流動性が高い資産のベンチマークは-0.01%のスリッページ、流動性が低い資産は-0.25%のスリッページでした。これらの条件におけるアルゴ実行のエッジは、流動性が高い資産で-0.02%、流動性が低い資産で+0.04%でした。

流動性の低い資産と流動性の高い資産

後ほどのケーススタディで、TWAPや流動性の高い資産が全体的にベンチマークに対して負のエッジを示す理由を説明します。

ケース2:多元分析(取引規模)

取引規模

取引規模が大きくなるほど、スリッページは大きくなります。特に200万USDTを超える取引では、ベンチマークシナリオで最大-7.4%のスリッページが発生しました。

取引規模チャート

取引規模と資産の種類の関係

以下のグラフでは、アルゴ注文のエッジを取引規模と資産の種類の2つのパラメーターで分析しています。特に流動性が低い資産の大口取引では、アルゴ注文が特に効果的で、平均13%ものエッジを示しました。

取引規模と資産の種類の関係

一方、取引規模が小さく流動性が高い資産では負のエッジが示され、これは流動性の高いコインがアルゴリズムに頼らずとも十分に取引の影響を吸収できることを示唆しています。また、この負のエッジはアルゴ注文の設定が適切でない場合にも発生する可能性があります(ケーススタディ4を参照)。

ケース3:多次元分析(アルゴ取引の種類)

アルゴ取引の種類と取引規模の関係

大口取引におけるアルゴ取引の比較では、特に取引量が大きい場合にPOVがTWAPを上回るパフォーマンスを示しています。これは、POVの執行率が市場の取引量に応じて増加する特性に起因すると考えられます。この特性により、POVは市場の動きに「追随」して取引を執行し、スリッページの軽減に寄与しています。

アルゴ取引の種類と取引規模の関係

アルゴ取引の種類と取引期間の関係

POVは大きなエッジを持つ一方で、取引完了までに要する期間は一定でなく大きく変動する可能性があるため、POV選択の際の懸念材料になることもあります。以下の図からもわかるように、POVのメリットを最大限に享受するためには、取引期間が8時間以上に及ぶ場合もあります。

アルゴ取引の種類と取引期間の関係

ケース4:アルゴリズムの設定について

ケース1を振り返ると、TWAPおよび流動性の高い資産において、全体的なエッジがわずかにマイナスになる可能性があることがわかりました。ただし、さらに調査を進めると、この結果はTWAPの設定による影響が考えられます。

TWAPの期間(期間と資産の種類の関係)

以下のグラフでは、流動性の高い資産においてTWAPの取引期間が1時間を超える場合、マイナスのエッジがより顕著になることが示されています。これは、資産自体は十分な流動性を持ち、速やかに取引を完了できる可能性があるものの、設定された期間が必要以上に長く、その結果、市場変動に伴うスリッページの増加につながったと考えられます。

TWAPの取引期間

指値価格

最後のグラフでは、アルゴ注文での指値価格の設定について検討しています。指値価格を入力するだけで、指定しない場合よりも中央値エッジ(スリッページの中央値における優位性)が大幅に高くなります。

指値価格の比較

これは、アルゴ注文が価格が指値を超えた際に執行を停止し、価格が再び指値価格内に戻ったときに自動的に再開する機能を持つためです。この仕組みにより、短期的な急激な価格変動から取引を保護できます。

調査結果のまとめ

  • 流動性が低い場合や取引規模が大きい場合、スリッページが増加する傾向があります。こうした状況では、アルゴ注文が明確なメリットをもたらすことになります。

  • 一般的に、POVおよびTWAPはいずれも流動性の低い大型資産の取引に有効であり、TWAPでは目的や取引期間に応じ(例えば適切な期間設定など)より慎重な設定が求められる場合があります。

  • 指値価格の設定は、短期的な価格変動から取引を保護するために推奨されるベストプラクティスとなります。

  • 流動性の高い資産を小口で取引する場合、流動性が十分にあることやアルゴ設定の不備によるリスクを避けるために、直接の成行注文が好まれる場合があります。

  • また、上記のケーススタディでは明確に示されていないものの、アルゴ注文は大口取引において一層メリットが強いと言えます。例えば、注文を小分けにして大口取引を目立たなくし、市場への影響を抑えながら取引に参加できます。

まとめ

バイナンスのアルゴ注文は、特に大口取引や流動性の低い資産を扱う際に、スリッページや市場への影響をより適切に管理できます。しかし、パフォーマンスは選択されたアルゴリズムのみならず、各取引に合わせたきめ細かい設定にも左右されます。

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