暗号資産取引における分離マージンとクロスマージンとは
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暗号資産取引における分離マージンとクロスマージンとは

暗号資産取引における分離マージンとクロスマージンとは

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公開済 Aug 7, 2023更新済 Dec 11, 2023
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概要

  • 分離マージンとクロスマージンは、多くの暗号資産取引プラットフォームにおけるそれぞれ異なる証拠金タイプです。

  • 分離マージンでは、特定のポジションに対して担保として割り当てる資金量を決定して取引を行い、残りのアカウント残高はこの取引により影響を受けることはありません。

  • クロスマージンでは、アカウントの全資金をすべての取引の担保として使用します。あるポジションが不利に動いても、別のポジションで利益が出ていれば損失が相殺されるため、ポジションを長く維持できます。

  • 分離マージンとクロスマージンのどちらを選択するかは、取引戦略、リスク許容度、保有ポジションをどの程度積極的に運用するかによって決まります。

証拠金取引とは

分離マージンとクロスマージンについて説明する前に、証拠金取引について簡単に説明します。証拠金取引では、取引所やブローカーから資金を借り入れて、自分の手持ち資金以上の金額で資産を売買します。アカウントの資産を担保にし、資金を借り入れより大きな利益確保を目指して大きな取引を行えます。

例えば、手持ち資金が$5,000あり、Bitcoinの価格が上昇すると予想しているとします。$5,000のBitcoinを直接購入するか、ポジションにレバレッジをかけて借入資金で取引できます。Bitcoinの価格が20%上昇したとします。レバレッジをかけずに$5,000を投資していた場合、投資価値は$6,000(原資産当初購入額$5,000+利益$1,000)になります。これは初期投資に対する20%の利益です。

一方で、$5,000に5:1のレバレッジをかけた場合、4倍の金額を借り入れること(ローン)になり投資額は$25,000になります(元手$5,000と借入資金$20,000)。ビットコイン価格が20%上昇すると、$25,000の投資額は$30,000の価値になります(原資産当初購入額$25,000+利益$5,000)。$20,000の借入資金を返済すると、手元には$10,000が残ります。手持ち資金の$5,000投資に対し、100%の利益が出たことになります。

逆のシナリオとして、Bitcoinの価格が20%下落した場合を考えてみましょう。レバレッジなしの$5,000の投資は、$4,000(原資産当初購入額$5,000-損失$1,000)となり、20%の損失になります。しかし、5:1のレバレッジをかければ、$25,000の投資は$20,000(原資産当初購入額$25,000-損失$5,000)の価値になります。$20,000の借入資金を返済すると、手元には何も残らず、初期投資額の100%を失うことになります。

この例は単純化しており、取引手数料や借入資金にかかる利息は含めていません。市場は急速に動く可能性があり、初期投資額を上回る損失が発生する可能性があります。このことはしっかりと覚えておいてください。

分離マージンとは

分離マージンとクロスマージンは、多くの暗号資産取引プラットフォームで利用できる、それぞれ異なる証拠金タイプです。それぞれのモードには独自の利便性とリスクがあります。それぞれがどのようなもので、どう機能するのかを理解しましょう。

分離マージンモードでは、証拠金額は特定のポジション向けに限定されます。特定ポジション向けの担保として割り当て資金量を決定することになり、残りの資金はその特定の取引の影響を受けません。

例えば、合計10 BTCのアカウント残高があるとします。ETH価格が上昇すると予想し、レバレッジをかけてEther(ETH)のロングポジションを建てることにしました。この特定の取引で、5:1のレバレッジをかけ分離マージンアカウントに2 BTCを割り当てます。実質的に10 BTC相当のEther(自己資金2BTC+レバレッジポジション8 BTC)で取引することになります。

Etherの価格が上昇しポジションを決済する場合、獲得した利益はこの取引に用意した2 BTCの分離マージンの上に乗ることになります。逆にEther価格が大幅に下落した場合、潜在的に損失となる最大額は、分離マージンとして設定した2 BTCのみとなります。ポジションが強制決済(清算)されても、アカウントにある8 BTCはそのまま残ります。「分離」マージンと呼ばれる理由がここにあります。

クロスマージンとは

クロスマージンでは、アカウントの全資金を取引の担保として使用します。あるポジションが不利に動いても、別のポジションで利益が出ていれば損失を相殺できるため、ポジションを長く維持できます。

この仕組みを具体例で見てみましょう。合計10 BTCのアカウント残高があるとします。Ether(ETH)のレバレッジ付きロングポジションと暗号資産「Z」のレバレッジ付きショートポジションを、クロスマージンで建てることにします。Etherでは2:1のレバレッジを用い4 BTC相当の取引を行い、Zでは同じく2:1のレバレッジを用い6 BTC相当の取引を行います。アカウント残高合計の10 BTCが両方のポジションの担保として使用されることになります。

Ethereumの価格が下落し、含み損が発生しました。同時にZの価格も下落し、ショートポジションの利益が発生するとします。Zの取引の利益は、Ethereumの取引の損失を相殺するため、両方の未決済ポジションを維持できます。

しかし、Ethereum価格が下落し、Zの価格が上昇した場合、両方のポジションが損失となる可能性があります。これらの含み損がアカウント残高合計を上回った場合、両方のポジションが強制決済(清算)され、アカウント残高の10 BTCをすべて失う可能性があります。特定の取引用に割り当てた2 BTCのみが損失リスクの対象となる分離マージンとは、リスクが大きく異なります。

この例は非常に単純化したものであり、取引手数料やその他のコストを含めていません。さらに、実際の取引シナリオは通常、より複雑なものになります。

分離マージンとクロスマージンの主な違い

上記の例から、分離マージン取引とクロスマージン取引の類似点と相違点がはっきりします。両者の主な違いをまとめると、以下のようになります。

  1. 担保と強制決済(清算)の仕組み

分離マージンでは、証拠金の担保に一部のみ資金が特定の取引に利用され、リスクにさらされるのはその担保に割り当てられた一部の資金のみとなります。つまり、分離マージンモードで証拠金2 BTCを担保として取引している場合、その2 BTCだけが強制決済(清算)のリスクにさらされます。

クロスマージンでは、アカウント内の全資金が取引の担保となります。1つのポジションが不利になっても、システムはアカウント残高全体を計算するため、ポジションの強制決済(清算)が防がれます。ただし、複数の取引で事態が極端に悪化した場合、アカウント残高全体を失うリスクがあります。

  1. リスク管理

分離マージンでは、よりきめ細かいリスク管理ができます。アカウントの他の部分に影響を与えることなく、個々の取引にリスク許容額を配分できます。一方、クロスマージンでは、すべてのオープンポジションのリスクが統合されることになります。複数のポジションをまとめて管理することになりお互いに相殺される可能性がある点で有益であるものの、逆にリスクが統合されることで損失が大きくなる可能性もあります。

  1. 柔軟性

分離マージン取引では、証拠金を増やす場合、その分離マージンポジションへの資金の追加は手動で行うことになります。一方、クロスマージンでは、ポジションの強制決済を避けるに当たり自動的にアカウントの全利用可能残高を利用するため、証拠金維持の面でより少ない手間となります。

  1. ユースケース

分離マージンは、取引ごとにリスクを管理したいトレーダーにとって、特に特定の取引に高い確信を持っておりリスクを分離して管理する場合に適しています。クロスマージンは、複数のポジションで互いにヘッジし合う可能性を想定する場合や、証拠金維持の手間を省きながらアカウント残高全体にレバレッジをかけたい場合に適しています。

分離マージンの長所と短所

分離マージンの長所と短所は次のとおりです。

  1. 分離マージンの長所

リスクの管理:ポジションごとにどれだけの資金を配分し、リスクを負うかを決定できます。割り当てられた資金のみがリスクの対象となり、残りの資金はその特定の取引から生じる潜在的な損失から安全に保護されます。

より明確な損益(P&L):そのポジションに関連する資金の正確な額を把握できるので、個々のポジションの損益計算が容易になります。

予測可能性:資金を分離することで、最悪のシナリオで発生しうる最大損失額を予測できます。これはリスク管理上の強みにもなります。

  1. 分離マージンの短所:

密接な管理が必要:資金の一定部分のみがポジションの担保となるため、強制決済を避けるために取引状況を注意深く監視する必要があります。

レバレッジの制限:取引が不利に動き始め、強制決済に近づいた場合、清算を防ぐために残りのアカウント資金を自動的に利用することはありません。分離マージンアカウントには、手動で担保となる資金を追加する必要があります。

管理上の手間:特に初心者や多数のポジションを管理している場合、異なる取引で複数の分離マージンを管理するのは複雑になるかもしれません。

要約すると、分離マージンはレバレッジ取引においてリスクが限定された環境を提供する一方で、より活発な取引管理が求められます。適切に運用しないと、利益が限定される可能性もあります。

分離マージンの長所と短所

クロスマージンの長所と短所は、次のようなものとなります:

  1. クロスマージンの長所

証拠金配分の柔軟性:クロスマージンでは、未決済ポジションの強制決済(清算)を防ぐため、アカウント内の利用可能な残高を自動的に使用します。分離マージンに比べて流動性が高くなります。

ポジションの相殺:あるポジションの利益が別のポジションの損失を相殺できるため、ヘッジ戦略に役立つ可能性があります。

強制決算(清算)リスクの低減:アカウント残高全体を必要証拠金として共有するため、単一のポジションが強制決算(清算)されるリスクが低くなります。

複数取引の管理が容易:各取引の証拠金を個別に管理する必要がないため、複数取引の管理の手間が簡素化されます。

  1. クロスマージンの短所

全資産強制決算(清算)リスクが高い:すべてのポジションが不利に動き、損失の合計がアカウント残高を上回った場合、アカウント残高全体を失うリスクがあります。

個々の取引の管理が困難:証拠金はすべての取引で共有されるため、個々の取引での特定のリスク対リターン比率の割り当てが難しくなります。

過剰レバレッジの可能性:アカウント残高全体に容易にレバレッジをかけられるため、分離マージンよりも大きなポジションを建てる誘惑に駆られ、結果的に損失が拡大する可能性があります。

リスクエクスポージャーが不明確:特に、利益と損失の程度が異なる複数のポジションを保持している場合、リスクエクスポージャーの合計を一目で把握することが困難になります。

分離マージンとクロスマージン両方の同時活用例

分離マージンとクロスマージンの両方の戦略を同時に採用することにより、暗号資産取引で収益を最大化し、リスクを最小化できる可能性があります。次の例で詳細を見てみましょう。

Ethereum(ETH)アップグレードを迎えるに当たり強気な値動きを予想しているものの、市場全体のボラティリティによる潜在的なリスクをヘッジすべきと考えているとします。さらに、Etherが上昇する一方、Bitcoin(BTC)が下落する可能性があると見立てています。

この場合、ポートフォリオの一部分、例えば30%を分離マージンに使ってEtherのレバレッジロングポジションへの割り当てることが考えられます。こうすることで、Etherが期待通りに動かなかった場合に備え、潜在的な損失を30%に抑えられます。逆に、Etherが上昇すれば、ポートフォリオはこの部分で大きな利益を得ることができます。

ポートフォリオの残りの70%はクロスマージンで用い、BitcoinのショートポジションとBitcoinの動きに関係なく上昇が見込まれる別のアルトコイン「Z」のロングポジションを建てます。

こうすることで、一方のポジションからの潜在的な利益を使い、もう一方のポジションからの潜在的な損失を相殺できます。(予測どおりに)Bitcoinが下落した場合、この利益でZからの損失を相殺できます。また、この逆の場合も同様です。

これらのポジションの設定後、両方の戦略を継続的に監視する必要があります。Etherが下落し始めたら、分離マージンポジションを減らして損失の抑制を検討できます。同様に、クロスマージン戦略のZの価格が激しく下落し始めた場合、ポジション調整を検討できます。

この例では、分離マージンとクロスマージンの両方をまとめて採用することで、リスクヘッジを行いながら積極的に市場予測から利益を得ようとしていることになります。しかし、これらの戦略の組み合わせはリスク管理に役立つものの、利益や損失からの保護を保証するものではありません。

まとめ 

証拠金取引は、利益拡大の可能性がある反面、それ以上ではないにしても同程度のリスクが伴います。分離マージンとクロスマージンのどちらを選択するかは、取引戦略、リスク許容度、保有ポジションをどの程度積極的に運用するかによって決まります。

ボラティリティが決め手となることが多い暗号資産取引では、両方の証拠金タイプの複雑さを理解することが最も重要になります。十分な情報に基づいて決断し、リスク管理を徹底することで、暗号資産の乱高下を乗り越えることができます。いつものことですが、証拠金取引に本格的に取り組む前に十分なリサーチを行い、必要に応じて専門家に相談するようにしてください。

参考文献

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