要点
アービトラムとは、イーサリアムのセキュリティを維持する傍ら、トランザクションを高速化かつ廉価にするために設計された一連のイーサリアムのスケール化技術です。
同技術一式には、Arbitrum One(ロールアップチェーン)、Arbitrum Nova(AnyTrustチェーン)、レイヤー2またはレイヤー3ネットワークとして動作するカスタマイズ可能なOrbit(オービット)チェーンが含まれています。
ロールアップとAnyTrustチェーンの両方では、実行用および紛争解決用にオプティミスティック・ロールアップ技術を用いているものの、データ可用性の面ではそれぞれ異なっています。
Orbitチェーンでは、開発者はカスタマイズ可能な機能(ガバナンス、ガス代トークン、プライバシー決済レイヤーなど)を用いて、独自のロールアップまたはAnyTrustチェーンを立ち上げられます。
はじめに
イーサリアム用のレイヤー2スケーリングソリューションであるアービトラムでは、オプティミスティック・ロールアップを用いて高速かつ廉価でスケーラブルなトランザクションの実現を目指しています。これにより、開発者がイーサリアム上で行うのと同様にdAppを立ち上げることができる一方、その手数料はイーサリアムよりも廉価であるほか、ユーザーの確認時間もより短縮されます。
アービトラムとは?
アービトラムとは、Arbitrum Nitro(アービトラム・ニトロ)技術スタック上に構築された一連のイーサリアムのスケール化技術です。同ネットワークでは、オプティミスティック・ロールアップを用いてオフチェーンでトランザクションを実行し、これらをまとめた上でその要約をイーサリアムに送信します。こうして導き出された結果は、異議申し立てがない限りは有効であるとみなされます。また、異議申し立てがあった場合、イーサリアム上で紛争対象のトランザクションの検証を行います。
アービトラム一式には、以下などが含まれます。
Arbitrum One(アービトラム・ワン):アービトラム・ロールアップ・プロトコルを実装する公開型ロールアップチェーンであり、トラストレスを最大化するために、すべてのトランザクションデータはイーサリアムに投稿されます。
Arbitrum Nova(アービトラム・ノヴァ):アービトラムAnyTrustプロトコルを実装する公開型AnyTrustチェーンであり、データ可用性委員会(DAC)においてトランザクションデータをオフチェーンで保存し、手数料の削減を行っています。
Arbitrum Orbit Chains(アービトラム・オービット・チェーン):レイヤー2ネットワーク(イーサリアムに接続)またはレイヤー3ネットワーク(別のレイヤー2に接続)として動作する完全にカスタマイズ可能なチェーンであり、特定のパフォーマンス、ガバナンス、コスト要件に合わせて調整可能となっています。
アービトラムの仕組み
シーケンサー
アービトラム上でトランザクションを送信すると、まずシーケンサーに届きます。シーケンサーではトランザクションの順序決定と即時確認を行い、その結果がすぐに表示されます。こうした順序情報はシーケンサーフィード経由でリアルタイムで配信されるため、ウォレットやアプリケーションの即時更新が可能となっています。
トランザクションの順序が決定されると、シーケンサーではこれらをバッチにまとめ、データを圧縮してサイズおよびコストを削減し、バッチをイーサリアム(または他の親チェーン)に投稿します。こうした仕組みにより、イーサリアム上ですべてのトランザクションを即座に検証する必要がなくなり、誤りが証明されない限り正確であるとみなされるため、コストを抑えながら処理を高速化できます。
異議申し立ての解決
不審な行動を発見した場合、設定された期間中に異議申し立てを提出できます。異議申し立てが提出された場合、イーサリアム上でアービトラムのBoLD(Bounded Liquidity Delay)プロトコルを用いて、バッチ内の異議申し立て中の部分のみを再実行します。BoLDとは、複数ラウンドから成る不正証明システムを指し、これによりトランザクションの結果の正確性を検証できます。
エラーまたは不正が検出された場合、不正なトランザクションが再実行され、ステート(状態)が修正されます。また、不正なトランザクションを承認した担当者は、そのペナルティとしてステーキング済みの資産を没収されます。トランザクションは、シーケンサーにより確認された時点でソフトファイナリティを有し、該当するバッチがイーサリアムに投稿されて異議申し立て期間が終了した時点で、ハードファイナリティを有します。
技術スタック
アービトラムは、イーサリアムのソフトウェア(Geth)の修正済みバージョン上に構築された技術スタックであるArbitrum Nitro(アービトラム・ニトロ)上で実行されます。Nitroでは、WebAssembly(WASM)を仮想マシンに組み込むことにより、異議申し立てが発生した場合のトランザクションの検証を行っています。こうした仕組みはイーサリアムの仕組みと類似しており、より多くのトランザクションの廉価なコストでの処理を目指したものとなっています。
現時点では公開型のテストネット期間中にあるStylusアップグレードでは、イーサリアム仮想マシン(EVM)と並行して動作する2つ目の仮想マシンを導入し、デュアル環境のセットアップを行っています。EVMではイーサリアムと同様、Solidityで記述されたスマートコントラクトに引き続き対応しています。一方、Stylusでは、Rust、C、C++などの一般的かつ高度な言語で記述されたWASMベースのコントラクトの実行が可能となっています。StylusおよびSolidityで記述されたコントラクト同士は簡単にやり取りできるため、開発者はアプリケーションの特定の部分の高速化したり、Stylusのみで書いた完全に新規のアプリケーションを柔軟に構築したりできます。
アービトラムエコシステム
すべてのアービトラムチェーンでは、共通の基盤技術を採用しているほか、オプティミスティック・ロールアップに基づき異議申し立ての解決を行っています。アービトラムチェーンでは、トランザクションデータの保存方法と、分散性、コスト、パフォーマンスのバランスを取るための各ネットワークの設計方法において、他のチェーンとの差別化を図っています。
Arbitrum One
Arbitrum One(アービトラム・ワン)とは、公開型のオプティミスティック・ロールアップ・チェーンです。同チェーンでは、トランザクションをオフチェーンで処理し、すべてのトランザクションデータをイーサリアムに送信するため、第三者を信頼せずともチェーンのステートを独自検証できます。分散性および透明性を優先したそのアプローチにより、Arbitrum Oneは分散型金融(DeFi)プラットフォームや非代替性トークン(NFT)マーケットプレイスなどの高価値かつ信頼性が求められるアプリケーションに最適となっています。
Arbitrum Nova
Arbitrum Nova(アービトラム・ノヴァ)は、AnyTrustプロトコルで動作し、オプティミスティック・ロールアップ技術を採用しているものの、そのデータ可用性の処理方法は独自のものとなっています。Arbitrum Novaでは、すべてのトランザクションデータをイーサリアムに投稿する代わりに、データ可用性委員会(DAC)にオフチェーンで保存しています。DACとは、必要に応じてデータを提供する役割を担うパーミッション型の主体グループです。
このセットアップでは、トランザクションコストが大幅に削減されるものの、少なくとも一部のDACメンバーが誠実であることを前提としています。DACがデータを提供できない、または異議申し立てが発生した場合、Novaがロールアップモードに切り替わり、データをイーサリアムに投稿して問題の解決を行います。Novaではこうした切り替えが可能であるため、小規模なトランザクションを大量に処理に処理する必要がある、高取引量かつ低コストを求めるアプリケーション(ゲームプラットフォームやソーシャルアプリなど)に最適となっています。
Arbitrum Orbit Chains
Arbitrum Orbit Chains(アービトラム・オービット・チェーン)では、開発者は自分専用のロールアップチェーンまたはAnyTrustチェーンを構築できます。これらのチェーンは、イーサリアムに直接接続するレイヤー2ネットワークとして、またはArbitrum OneやNovaなどの別のレイヤー2に接続するレイヤー3ネットワークとして動作します。
これらのチェーンは完全にカスタマイズ可能である一方、アービトラムエコシステムのセキュリティおよび互換性のメリットを享受できます。開発者は、ガバナンスモデル、ガス代支払いトークンの選択肢、プライバシー設定、スループット容量、データ可用性の選択肢などを設定でます。こうした柔軟性を備えたOrbitチェーンは、企業向けシステムや非公開ネットワークなどの特殊な用途に最適となっています。
Arbitrum Bridge
Arbitrum Bridge(アービトラム・ブリッジ)により、イーサリアムとアービトラムネットワーク間での資産の移動を行えます。通常、イーサリアムからアービトラムチェーンへのETHまたはその他のトークンの入庫は迅速に処理され、数分で完了するケースが多くなっています。一方、ロールアップチェーンからイーサリアムへの出庫には、不正証明に関する申し立て期間の設定を理由に約7日間を要します。
急ぎの場合、少額の手数料でほぼ即時の決済を提供する高速ブリッジサービスを利用できます。AnyTrustチェーンのプロセスもこれと同一ではあるものの、そのデータの保存方法により、通常はスピーディに出庫できます。
課題
アービトラムでは速度とコストの面での向上が見られるものの、いくつかのトレードオフにも留意する必要があります。
出庫の遅延
ロールアップチェーンからイーサリアムに資金を戻す場合、不正証明に関する申し立て期間の設定により、通常、約1週間を要します。高速ブリッジサービスにより待機時間を数分に短縮できるものの、通常は追加の手数料を要するほか、資金の送金にあたり別のサービスを信頼する必要があります。
中央集権化の懸念
アービトラムのインフラのすべての部分は、未だ完全なる分散化には至っていません。AnyTrustチェーンは、パーミッション型の小規模な主体グループに依存しており、同グループがトランザクションデータのオフチェーンでの保存を担当しています。同グループの大部分のメンバーがセキュリティ侵害を受けた場合、または悪質な行為を行った場合、データが隠蔽され、同チェーンの異議申し立て処理能力に影響が生じる可能性があります。
Arbitrum Oneでは、シーケンサーは依然としてOffchain Labsにより運営されており、バリデーター(同チェーンのステート確認を担当)として誰もが参加できるわけではなく、参加者は許可リストに基づき決定されます。アービトラム分散型自律組織(DAO)では、これらの役割を段階的に開放する予定となっているものの、現時点では、特定の運用者に対する一定の信頼が必要となっています。
ARBトークン
ARBトークンは、アービトラムプロトコルのネイティブユーティリティトークンです。同トークンは、以下などの各目的に用いられています。
投票:ARBの保有によりアービトラムDAOへの参加が可能となり、同トークン保有者は同ネットワークの将来的な方向性を決定する提案に投票できます。提案の例として、プロトコルのアップグレード、技術的なパラメーターの調整、またはトレジャリー資金の用途などが挙げられます。
委任:直接的な投票を希望しない場合、ARBトークンを信頼できるコミュニティメンバーまたは組織に委任することもできます。信頼できるコミュニティメンバーまたは組織が代理で投票を行うため、各提案を追跡せずとも同ネットワークに継続的に参加できます。
資金提供:同DAOのトレジャリーでは、ARBによる資金の一部を原資として、アービトラム上の開発者、研究チーム、プロジェクトに対する助成金の割り当てが可能となっています。資金調達ツール、インフラ、新規アプリケーションへの資金提供により、エコシステムの成長を後押ししています。
セキュリティ:ARBの保有者によりセキュリティカウンシルが選出されます。セキュリティカウンシルは少人数から成るグループであり、緊急時における限定的な権限(重大な脆弱性への対応や攻撃への対処など)を行使できます。
まとめ
アービトラムでは、オプティミスティック・ロールアップを用いてトランザクションをオフチェーンで処理し、セキュリティ維持を目的にイーサリアム上での決済を行います。Arbitrum One、Arbitrum Nova、完全にカスタマイズ可能であるArbitrum Orbitチェーンなどを備えた同ネットワークでは、DeFiアプリケーション、ゲームプラットフォーム、ソーシャルネットワークに至るまで、多彩なアプリケーションに対応可能となっています。
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