イーサリアムのアカウントアブストラクションの解説(ERC-4337)

イーサリアムのアカウントアブストラクションの解説(ERC-4337)

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公開済 Mar 17, 2023更新済 Aug 23, 2025
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要点

  • ERC-4337は、イーサリアムのコンセンサスプロトコルを変更することなく、アプリケーションレイヤーでアカウントアブストラクションを実現するイーサリアムの規格です。

  • 2023年3月にイーサリアムメインネット上でスマートコントラクトとして導入されたERC-4337により、単一アカウント内でトークンのトランザクションやコントラクトのやり取りを管理できるスマートコントラクトウォレットを実現します。

  • ERC-4337規格は、より使い勝手の良い暗号資産ウォレットの設計を目指し、暗号資産の普及拡大に貢献しています。

ERC4337 イーサリアムのアカウントアブストラクション

はじめに 

イーサリアム改善提案(EIP)は、イーサリアムのコアプロトコルのアップグレードやアプリケーションレベルの規格仕様など、さまざまな仕様を定めています。その中で、Ethereum Request for Comment(ERC)は、EIPの一種で、スマートコントラクトやトークンのインターフェースなど、アプリケーションレベルの規格を設定します。ERCはコンセンサスレベルのアップグレードとは異なり、開発者や業界関係者が合意して作り上げるコミュニティ主導の規格です。

ERC-4337は、イーサリアムのメインネット上に一連のスマートコントラクトとインフラを展開し、アカウントアブストラクション(アカウント抽象化)を実現した近年のERC規格です。2021年にEIP-4337として初めて提案され、2023年にERC標準として採用・公開されました。現在も一部では元のEIP番号が使われることがありますが、正式名称はERC-4337となります。

ERC-4337とは

ERC-4337は、2021年にVitalik Buterin(ヴィタリック・ブテリン)氏とイーサリアムの開発コミュニティによって初めて提案され、アカウントアブストラクションの実装を目指すものです。2023年3月に正式にローンチされ、暗号資産ウォレットをプログラム可能なスマートコントラクトアカウントに変える新しい仕組みが導入されました。

イーサリアムには現在、秘密鍵によって管理される外部所有アカウント(EOA)、もう1つはプログラムコードを内蔵するスマートコントラクトアカウントの主に2種類のアカウントがあります。ERC-4337により、これら両方の機能が単一のスマートコントラクトアカウントに統合されました。このアカウントでは、トランザクションの発信やトークンとのやり取り、コントラクトのデプロイが可能となり、ソーシャルリカバリー、多要素認証、カスタマイズ可能なトランザクション検証、アップグレード機能などの新しいウォレット機能を実現します。

ERC-4337は、従来のウォレット機能を単一のスマートコントラクトアカウント内にプログラムとして実装することで、ユーザー体験とセキュリティを向上させます。

ERC-4337の必要性

イーサリアムはアカウントベースのモデルを採用しており、外部所有アカウント(EOA)とスマートコントラクトアカウントが、トランザクションによって更新される残高を管理しています。MetaMaskなどの既存の大半のウォレットが扱うEOAは、秘密鍵によって一元的に管理されており、すべてのトランザクションにはこの秘密鍵での署名が求められます。この方法は、複雑なウォレット復旧手続きや、秘密鍵の紛失によるリスクといった問題があります。

スマートコントラクトウォレットは、プログラム可能なロジックを備え、これらの問題に対応・解決します。しかし、資金保有用アカウントとガス代決済用アカウントの2つを管理する必要があり、管理が複雑になる問題がありました。

この煩雑さへの解決策として、ERC-4337はトランザクションの承認とガス代決済ロジックを統合し、スマートコントラクトウォレット機能を提供します。この手法ではコンセンサスレイヤーの変更を伴わず、柔軟なトランザクション検証、ガス代の抽象化、強化された復旧オプションを通じて、ウォレットのセキュリティと使いやすさが向上します。

ERC-4337の仕組み

これまで、EIP-2938のようにコンセンサスレイヤーの変更を伴うアカウントアブストラクションが提案されてきましたが見送られてきた経緯があり、コンセンサスレイヤーを変更せずに動作するERC-4337が採用されることとなりました。

ERC-4337では、UserOperationと呼ばれる(ユーザーの操作をまとめた)新しいトランザクションタイプが導入されました。これらのUserOperationは、オフチェーンで管理される別のメモリプールに送信され、そこでバンドラーと呼ばれる自動化されたサービスが収集・集約し、通常のイーサリアムトランザクションとしてまとめてオンチェーンに送信します。

バンドラーは、ガス代を支払い、複数のUserOperationをまとめたトランザクションをイーサリアムのブロックチェーンに書き込みます。そして、その報酬としてUserOperationに含まれる手数料を受け取ります。ネットワークのセキュリティを担うコンセンサスバリデーターとは異なり、バンドラーはトランザクションの仲介者として機能し、手数料の優先度に基づいてどのUserOperationを含めるかを選択します。

核となるコンポーネントはEntryPointスマートコントラクトで、UserOperationを検証・処理するセキュアな実行ゲートウェイとしてシステムの安全性を支えます。ウォレットには、実行前にカスタム認証ロジックを適用するための検証機能(validateUserOpなど)が実装されています。

このアーキテクチャにより、イーサリアムのコンセンサスプロトコルを変更することなく、プログラム可能で柔軟なウォレットが実現されています。

ERC-4337の目標

ERC-4337は、主に以下の達成を目指したものです。

  • アカウントアブストラクション:EOA(外部所有アカウント)とスマートコントラクトの機能を統合し、ユーザーに単一のプログラム可能なアカウントを提供。

  • 分散化:複数のバンドラーが自由にUserOperationsの処理に参加できるようにし、オープンなエコシステムを促進。

  • コンセンサス変更の回避:イーサリアムのコンセンサスレイヤーを変更せずに運用し、より迅速かつ容易な採用を実現。

  • 革新的なユースケースの実現:集約署名、1日あたりの取引上限、緊急アカウント凍結、ホワイトリスト管理、プライバシー保護アプリケーションなどの機能に対応。

  • 時間とガス代の節約: UserOperationsを単一のトランザクションに集約し、バンドラーがガス代を削減し、トランザクション処理能力を向上。

ERC-4337がユーザーにもたらす意義

一般のユーザーにとって、ERC-4337は暗号資産ウォレットの体験を大幅に簡素化・向上させる可能性を秘めています。

  • ウォレット設定の簡素化:シードフレーズを手動で管理する必要がなくなり、ウォレットを手軽かつ迅速に作成できるようになります。

  • アカウント回復機能の改善:多要素認証やソーシャルリカバリー機能により、鍵の紛失によるアクセス不能のリスクが低減します。

  • カスタマイズ可能なウォレット機能:自動支払い、事前承認済みトランザクション、一括処理などのサービスを容易に実装できるようになります。

  • セキュリティの強化:秘密鍵やシードフレーズの漏洩などユーザーのミスが減ることとなり、ウォレット全体の安全性が向上します。

  • ガス代の柔軟性:ユーザーはサードパーティ提供のPaymasterサービスを通じてERC-20トークンや他の資産でガス代決済でき、ネイティブのETHによるガス支払いを意識せずに済むようになります。

まとめ

ERC-4337は、スマートコントラクトのロジックをユーザーアカウントに直接組み込むことで、より直感的で安全かつ多機能なウォレットを開発できるようにする規格です。まだ普及途上であり、技術的・エコシステム面での課題も残されていますが、ERC-4337は暗号資産ウォレットをより親しみやすく、セキュアなものにし、幅広いユーザー層への普及に一役買っています。

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