要点
経済モデルとは、インフレや失業率などの様々な経済現象の分析を容易にするため、経済プロセスを単純化して理解しやすくしたものです。
経済モデルは暗号資産市場で直接的に使用されることはないものの、さまざまな暗号資産指標の分析に役立つ貴重な理論と手法を提供します。
経済モデルは、政策立案者がこれを用いて多くの情報を分析し、より優れた政策を立案するのにつかわれます。企業であれば、以降の経済状況を予測し、ビジネス戦略を立てる際に用います。
はじめに
経済を理解するとなると膨大な範囲に渡る様々なことが関連し、途方にくれてしまうかもしれません。一方で、経済を細分化し全体として分析する手法が経済学者によって開発されてきました。この記事では、経済モデル、その構成要素、種類、仕組み、暗号資産での活用方法、およびそのユースケースについて説明します。
経済モデルとは
経済モデルとは、経済プロセスを単純化して表現したものです。経済学者や政策立案者が、インフレや失業といった様々な経済現象に渡りお互いがどう影響し合うかを理解するのに役立ちます。
経済モデルにはいくつかの重要な狙いが存在します。
1. 異なる経済的変動要素の間での関係を説明。
2. 将来の経済動向や出来事を予測。
3. 経済政策の潜在的な影響を評価。
経済モデルの構成要素
変動要素
変動要素とは、経済モデルの結果に影響を与え、変化を生じさせる可能性がある要素を指します。一般的に経済的変動要素には、次のようなものがあります。
1. 価格:商品またはサービスの購入に必要な金額。
2. 数量:生産または消費される商品またはサービスの数量。
3. 収入:個人または世帯の収入。
4. 金利:資本の借入コスト。
パラメーター
パラメーターとは、モデル内の変数の動きを定義する固定値です。たとえば、インフレと失業の関係を分析するモデルでは、パラメーターとして自然失業率(NRU)と失業率の変化に対するインフレの影響力を利用します。
自然失業率(NRU)はインフレ非加速的失業率(NAIRU)とも知られ、労働市場が均衡状態である時の失業率の水準を指します。
方程式
方程式は、変数とパラメーターの関係を表す数式です。方程式は経済モデルの基盤といえます。
例えば、フィリップス曲線とはインフレ率と失業率の関係を表すモデルであり、フィリップス曲線の方程式は、次のように記述されます。
π=πe-β(u−un) 各数値の意味は次の通りとなります。
π=インフレ率
πe=予想インフレ率
β=インフレ率が失業率の変化にどの程度影響を受けやすいかを示すパラメーター
u=実際の失業率
un=自然失業率
前提条件
前提条件とは、様々な要因に一定の条件や制約を設定し、モデルを単純化するものです。一般的な前提条件には次のようなものがあります。
1. 合理的行動:消費者および企業による決定は、彼らの有用性または利潤の最大化に基づく。
2. 完全競争:市場には十分な購入者と販売者が存在し、単一の事業者による市場操作は不可能と仮定。
3. セテリス・パリブス(Ceteris paribus):ある変数の影響を分析する際、他のすべての変数は変化しないと仮定。
経済モデルの仕組み
1. 主要な変数との関係性を特定
最初に、経済モデルに含まれる主要な変数を特定し、それらの間の関係性を明確にします。例えば、需要と供給モデルの場合、主要な変数は以下のようになります。
価格(P)
需要量(Qd)
供給量(Qs)
これは需要曲線と供給曲線の関係で、価格(P)の変化に対して需要量(Qd)と供給量(Qs)がどのように変化するかを示すものです。
2. パラメーターを定義
次に、パラメーターを評価するために関連データを用意します。需要と供給モデルでは、典型的な主要パラメーターは次のとおりとなります。
需要の価格弾力性:QdがPの変化に対し、どの程度反応するかを測定。
供給の価格弾力性:QsがPの変化に対し、どの程度反応するかを測定。
3. 方程式の作成
次に、変数とパラメーターの関係を表す方程式を作成します。たとえば、需要と供給モデルでは、方程式は次のようになります。
Qd=aP aは需要の価格弾力性を指す
Qs=bP bは供給の価格弾力性を指す
4. 前提条件の定式化
最後に、前提条件を設定しモデルを簡略化します。前提条件は、モデルの範囲と制限を定義し、そのモデルが何に対して有効または無効かを明確にするものです。たとえば、需要と供給モデルは、次の前提条件で設計されています。
完全競争:様々な市場の不完全性を排除しつつ、需要と供給の仕組みに焦点を当てることを想定。
セテリス・パリブス(Ceteris paribus):Pの変化がQdとQsに及ぼす影響を排し、この関係をより明確に分析。
例
リンゴ市場を例にして考察してみます。ここでは、リンゴの価格が需要と供給の相互作用によってどのように決定されるかを分析してみます。
1. 主要な変数との関係性を特定
このモデルの主な変数は次のとおりとなります。
価格(P):リンゴの価格。
需要量(Qd):消費者がある価格で購入したいと望むリンゴの数量。
供給量(Qs):生産者がある価格で販売したいと望むリンゴの数量。
この関係は、価格変化に応じてQdとQsの変化の様子を示す需要曲線と供給曲線によって説明されます。
パラメーターを定義
主要なパラメーターには、次のものがあります。
需要の価格弾力性:需要数量が価格変動にどの程度、反応するかを測定。
供給の価格弾力性:供給数量が価格変動にどの程度、反応するかを測定。
次の通り仮定します:
需要の価格弾力性=-50
供給の価格弾力性=100
これらの値は、次のことを意味します:
価格が$1上昇するごとに、リンゴの需要は50個減少。
価格が$1上昇するごとに、リンゴの供給は100個増加。
3. 方程式の作成。
次に、Qs、Qdと価格の関係を表す方程式を作成します:
Qd=200-50P
Qs=-50+100P
4. 前提条件を定式化
モデルを簡略化するために、次のような前提条件を用意します。
完全競争:市場には多くの買い手と売り手が存在し、誰も市場全体を支配できない。
セテリス・パリブス(Ceteris paribus):価格が需要量と供給量に及ぼす影響を分析する際、他の要因はすべて一定。
5. 市場均衡を分析
均衡価格と均衡数量を求めるために、Qd=Qsとします:
200-50P=-50+100P
250=150P
P=250÷150
P=1.67
P=1.67をいずれかの式に代入:
Qd=200-(50×1.67)
Qd=200-83.5
Qd=116.5
Qs=-50+(100×1.67)
Qs=-50+167
Qs=117
均衡価格は約$1.67で、均衡数量は約117個のリンゴになります。
6. 結果
この需要と供給モデルから、次のデータが得られます:
市場における効率性が最大化するのは、消費者が購入したい数量と生産者が販売したいリンゴの数量が均衡(均衡量)するリンゴ価格であり、すなわちそれが均衡価格である。
リンゴ価格が$1.67を超えると、供給が需要を超え、リンゴの余剰が発生。
リンゴ価格が$1.67未満であれば、需要が供給を超え、リンゴ不足が発生。
経済モデルの種類
視覚モデル
視覚モデルは、グラフやチャートを使用し、経済の概念や関係を表現するものです。これらは、需要と供給曲線などの概念を説明し、理解の助けになります。
経験モデル
経験モデルは、実世界のデータを使用して経済理論をテストし、経済変数の間の関係を明らかにするものです。経験モデルは、数学的方程式から始まり、データを使用して変数値を推定します。たとえば、経験モデルでは金利が1%上昇した場合、国全体への投資にどの程度影響が出るかを明らかにできます。
数理モデル
数理モデルは、方程式を使用して経済理論と経済関係を示すものです。これらは非常に詳細で、代数または微積分への深い理解が必要になります。たとえば、単純な数理モデルには、供給、需要、市場均衡の方程式が含まれます。
期待拡張モデル
期待拡張モデルは、将来の経済的変動に対する人々の期待を組み込んだものです。このモデルは、インフレや金利といった指標が経済行動にどのような影響を与えるかを予測するのに役立ちます。例えば、将来インフレ率が上昇すると予想される場合、人々は今より多く消費し、現在の需要を増加させるかもしれません。
シミュレーションモデル
シミュレーションモデルは、コンピュータープログラムを使用して、実際の経済シナリオをシミュレーションするものです。シミュレーションモデルで経済学者はさまざまな変数を用いて仮説を検証し、現実のシナリオでの検証なしで、潜在的な結果を予想します。これは、政策や経済ショックの潜在的な影響の分析に役立ちます。
静的モデルと動的モデル
静的モデルは、特定の時点における経済のスナップショットを提供するものです。このモデルは時間の経過に伴う変化を考慮していないため、使いやすいといえます。市場が変化に対してどのように適応するかは考慮せず市場の均衡を示す需要と供給モデルがこの例となります。
対照的に、動的モデルには時間的要素が含まれ、経済的変動が時間経過とともにどのように変化するかを示します。政策変更や外部からのショックなど、さまざまな要因に応じて経済状況がどのように変化するかを示します。一般的に動的モデルは複雑ですが、経済の長期的なトレンドやサイクルをよりよく理解できます。
暗号資産における経済モデル
市場力学の理解
経済モデルを使用すれば、需要と供給の関係がどのように暗号資産価格に影響するかを理解できます。購入可能なコインの数(供給)と購入したい人の数(需要)を分析すれば、値動きや市場動向を把握できます。
トランザクションコストの分析
トランザクションコストモデルは、ブロックチェーンネットワークに対する手数料の影響を示しています。トランザクション手数料が高ければ利用は妨げられ、手数料が安ければ利用が促進されます。コスト分析を行えば、ユーザーの行動やネットワーク効率にどのような影響を与えるかを予測できます。
経済シナリオのシミュレーション
シミュレーションモデルを使用すると、さまざまな変数(変動要因)が暗号資産市場にどのような影響を与えるかを検証できます。規制の変更、技術の進歩、またはユーザーの行動の変化をシミュレーションできます。理論的ではありますが、シミュレーションモデルは潜在的な将来性の分析へのフレームワークを提供します。
課題
非現実的な仮定
多くの経済モデルは、現実には必ずしも当てはまらない前提条件に依存しています。例えば、完全競争や合理的行動という概念は実際の市場には存在しない前提条件です。このような前提条件を現実世界のシナリオに適用すると、モデルの適用性や精度が大きな制約を受ける可能性があります。
過剰な単純化
経済モデルでは、複雑な現実世界の状況を単純化することによって、簡単に分析できるようにしています。そのため、経済モデルが重要な要素を省いてしまい、真の経済の動向を十分に把握せずに結論を導いてしまう可能性があります。例えば、経済的結果に影響を与える可能性のある個人差を無視してすべての消費者が同じように行動すると仮定したモデルがこれに該当します。
ユースケース
政策分析
経済モデルを活用し、各国政府の政策がどのような影響を与えるかを評価できます。例えば、減税、政府支出の増加、または金利(公定歩合)の変更への影響を測定できます。これにより、政策立案者はより多くの情報に基づきより効果的な政策を決定できます。
予測
経済モデルを活用し将来の経済動向を予測し、企業や政府は将来の計画を立てられます。例えば、今後数年間の経済成長率、失業率、インフレ率などを予測できます。
事業計画
企業は経済モデルを用い経済状況を予測し、それに基づいて戦略を立案します。例えば、自社商品への需要を予測し、生産計画を立案する際に経済モデルを活用します。
経済モデルの例
需要と供給モデル
需要と供給モデルは、商品の価格と数量が市場でどのように決定されるかを表すものです。供給曲線(生産者が異なる価格帯での販売数量を示す)と需要曲線(消費者が異なる価格での購入数量を示す)の2つの曲線を使用します。これらの曲線の交点が市場均衡になり、販売価格と数量が決定されます。
出典:Britannica.com
IS-LMモデル
IS-LMモデルは、財市場とマネーマーケット(短期金融市場)における金利と実質生産高との関係を説明するものです。IS曲線は財市場の均衡を表し、LM曲線は短期金融市場の均衡を表しています。これらの曲線の交点が両市場が均衡する一般的均衡を示しています。
出典:Dyingeconomy.com
フィリップス曲線
フィリップス曲線は、インフレ率と失業率の関係を示しています。インフレ率が上昇すると失業率は低下する傾向にあり、インフレ率が下落すると失業率は上昇する傾向を表しています。このモデルは、経済政策を運用する上でインフレ率と失業率の間でのバランスを調整するために利用されます。
出典:Study.com
ソロー(Solow)成長モデル
ソロー成長モデルは、労働、資本蓄積、技術進歩に焦点を当て、長期的な経済成長を検証するものです。これらの要因が、一定の速度で安定した成長する経済に対しどのように寄与するかを示すものです。
出典:Dyingeconomy.com
まとめ
経済モデルとは、経済の仕組みを単純化し、理解しやすくするものです。これらのモデルは、複雑な経済的相互作用を理解しやすい要素に分解し、さまざまな要因がどのように影響しあい経済的な結果をもたらすかを解明しています。経済モデルは、政策立案の決定や企業戦略の計画にも利用されています。暗号資産分野では、経済モデルは市場動向やトランザクションコストの分析、将来のシナリオのシミュレート、暗号資産市場への影響を与えるさまざまな要因の理解のための理論的枠組みとなっています。
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