要点
ロンドンハードフォークは2021年8月に実施され、2つの大きな変更が導入された。ひとつはガス代の新たな仕組み(EIP-1559)、もうひとつはイーサリアムのマイニング「タイムボム」(採掘難易度時限爆弾)の延期(EIP-3238)である。
このアップデートにより、特に混雑時におけるトランザクションの送信手続きやガス代の仕組みがより分かりやすくなり、簡単に送信できるようになった。
また、イーサリアムの2022年のMerge(マージ)の実施された正式なプルーフ・オブ・ステークへの移行に向けた重要な基盤を築いた。
はじめに
イーサリアムのロンドンハードフォークは、2021年8月に実施され、同年初めに行われたベルリンアップグレードに続くものです。イーサリアムのトランザクション手数料の仕組みとブロック難易度の調整に関し重要な変更が加えられ、ネットワークはプルーフ・オブ・ワーク(PoW)からプルーフ・オブ・ステーク(PoS)への移行に向けた準備が整うこととなりました。
このアップデートは、従来のイーサリアム利用方法やマイナーの収益構造に大きな変化をもたらす転換点であったため、当時は大きな議論となりました。その効果について当初明確ではなかったものの、ロンドンアップデートは2022年9月のMerge(マージ)で最終的に実現されたイーサリアムのプルーフ・オブ・ステーク(PoS)への移行の基礎を築くこととなりました。
イーサリアム・ロンドンアップデートでの変更点
ロンドンアップグレードのハードフォークでは、いくつかのイーサリアム改善提案(EIP)が導入されました。その中でも、特に注目された提案が2つありました。
EIP-1559:イーサリアムのトランザクション手数料の仕組みを再設計し、ベースフィー(基本手数料)モデルとバーン(焼却)メカニズムを導入。
EIP-3238:採掘難易度タイムボムの発動を延期し、イーサリアムのプルーフ・オブ・ステークへの移行期間を延長。
これらの提案は、イーサリアム2.0(現在は一般的にEthereum Mergeやプルーフ・オブ・ステーク(PoS)への移行と呼ばれる)に向けた、より広範な移行戦略の一部でした。
EIPとは?
イーサリアム改善提案(EIP)は、イーサリアムブロックチェーンに新しい機能を追加するための技術的な仕様書です。開発者は、イーサリアムコミュニティからの提案を踏まえて、提案を作成します。EIPは誰でも作成・提案でき、コミュニティで議論されたうえで承認されます。
各EIPは、EIP-1に示された以下のガイドラインに従う必要があります。
「EIPは、機能の簡潔な技術仕様とその根拠を提供する必要がある。EIPの作成者は、コミュニティ内でコンセンサスを構築し、反対意見を記録する責任を負う。」
EIPの提案者は、EIPを承認する前に、ピアレビューやドラフトを含む一定のプロセスを踏む必要があります。コミュニティが提案に満足したら、それをリリースに追加することができます。
EIP-1559とは?
EIP-1559は、イーサリアムネットワークにおけるガス代の決済方法を変更しました。このEIPは、イーサリアムの共同創設者であるVitalik Buterin(ヴィタリック・ブテリン)氏と他の開発者チームによって作成されました。
EIP-1559導入以前は、ユーザーは手動でブロックスペースに入札しなければならず、過大な支払いやトランザクションの渋滞が発生していました。これはシステム上、特にネットワークが混雑している時に大きな問題となっていました。
例えば、ネットワーク手数料が約20ドル(USD)かかる場合、それ以下の価値のトランザクションは割に合いません。このような高い手数料は、特に初心者にとってネットワークの魅力を下げる要因となっていました。
EIP-1559は、各ブロックにベース(基本)手数料を設定する新しいトランザクション価格設定メカニズムを提案したものです。ブロックチェーンはこの手数料をバーンし、イーサ(ETH)の総供給量を減少させます。この効果により、暗号資産にデフレ圧力がかかります。
ベース手数料は、ネットワークの需要に応じてブロックごとに変動します。もしブロックがトランザクションで50%以上埋まると、ベース手数料は上昇し、逆に空きが多い場合は下がります。このメカニズムでは、ほとんどのブロックで半分程度の利用率で均衡を保つことを意図しています。
この場合でも、トランザクションの処理を早めるために任意でチップ(優先手数料)を加えられます。しかし、ベース手数料の仕組みにより、ほとんどのウォレットや分散型アプリケーション(dApp)でガス代の予測がしやすくなり、使い勝手が向上しました。
EIP-3238とは?
ロンドンハードフォークで採用されたEIP-3238は、採掘難易度タイムボム(時限爆弾)の実施を遅らせました。タイムボムとは、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)マイニングの難易度を時間とともに段階的に上げるもので、最終的にPoWの機能を実質的に停止させ、ネットワークのプルーフ・オブ・ステーク(PoS)への移行を促す仕組みです。
2021年、Merge(マージ)アップグレードの準備がまだ整っていなかったため、EIP-3238の提案により採掘難易度タイムボムの発動を延期し、早期導入によるネットワークの混乱を回避しました。これにより、PoS(プルーフ・オブ・ステーク)へのアップグレードの最終調整に十分な時間が確保され、イーサリアムは2022年9月のMergeアップグレードで無事に移行を完了しました。
現在、イーサリアムは完全にPoSで稼働し、難易度ボムは機能せず、過去の遺物として残っています。
イーサリアムコミュニティの反応
ロンドンアップグレードは当時、多くの議論を呼びました。マイナーは、ベース手数料のバーンによる収益減少を懸念していました。一方、ユーザーは手数料の変動が抑えられることを概ね歓迎していました。また、大規模なマイニング事業者のみが収益を維持でき、中央集権化が進むという懸念も寄せられました。
しかし、イーサリアムが完全にプルーフ・オブ・ステーク(PoS)へ移行したことで、マイニングはもはや存在しなくなり、これらの懸念は過去のものとなりました。EIP-1559によるデフレ効果は現在も継続し、手数料のバーンを通じて数百万ETHが永久に流通から除外されています。
ロンドンアップデートによるユーザーへの影響
従来の仕組みはビットコインと同様、入札とよく似たものでした。トランザクション手数料(ガス代)を多く支払うほど、マイナーに優先的に処理され、検証される可能性が高くなっていました。しかし、ロンドンアップデート以降、イーサリアム上のトランザクションにおいて、ユーザーによるガス価格の選択は必要なくなりました。
代わりに、現在はベース手数料を支払います。このベース手数料はバーン(永久に流通から除外)されます。また、任意で優先手数料(チップ)を追加し、バリデーターに優先的にトランザクション処理を促すことも可能です。
ただし、ベース手数料はトランザクション送信時点とブロック追加時点で変動する可能性があります。支払い過ぎを回避するために、決済時の手数料上限を設定できます。バリデーターが手数料上限以下のベース手数料でトランザクションをブロックに含めた場合、差額はネットワークから返金されます。
まとめ
ロンドンハードフォークは、2022年のイーサリアムによるプルーフ・オブ・ステーク(PoS)への大規模な移行へと向けた準備を整え、現在もネットワークの運用に影響を与え続けています。より持続可能で使いやすいプラットフォームへと進化するイーサリアムの歩みの中で、このイベントは重要な節目となりました。
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