要点
Nillionは、安全性の高いデータ保存と計算に注力した分散型ネットワークである。同ネットワークでは、復号を必要とせずに非公開データを処理できる。
Nillionのアーキテクチャは、処理レイヤー（Petnet）、調整レイヤー（nilChain）、接続レイヤーで構成されており、各レイヤーがその安全性・効率性の高いデータ処理能力に貢献する。
Nillionでは、マルチパーティ計算（MPC）や準同型暗号（HE）などの暗号化技術を用いて、データのプライバシーを保護している。
はじめに
Nillionは、安全性の高い計算と機密性の高いデータの保存を目的に設計された分散型ネットワークです。同ネットワークでは、高度な暗号化技術の使用により、暗号化データを複合化せずとも処理できるプライバシー保護型インフラを提供しています。
Nillionの概要
Nillionは、安全性の高い非公開型のデータ処理を可能にする分散型コンピューティングプラットフォームです。分散型のトランザクション認証を重視した従来のブロックチェーンネットワークとは異なり、Nillionではブラインドコンピューティング（データを暗号化したまま処理する能力）に特化しています。これにより、データの機密性が必須となるアプリケーション（人工知能、金融、医療、分散型ID管理など）のプライバシーとセキュリティを向上させられます。
Nillionの仕組み
Nillionネットワークは、Petnet、nilChain、Blind Modulesの3種類のコンポーネントに基づき構築されています。Petnetは、暗号化されたデータの安全な保存および処理を目的とした、プライバシー強化技術（PET）へのアクセスを開発者に提供するものです。一方、nilChaiは、支払いとインセンティブを実行し、同ネットワーク内での積極的な参加とリソースの割り当てを確保するものです。
1. 処理レイヤー（Petnet）
同レイヤーは、Nillionネットワークで中心となる存在です。Petnet処理レイヤーは、暗号化されたデータに関する計算を連携して実行するための分散型ノードから構成されています。同レイヤーではブラインドコンピューティングアプローチを取っており、単一のノードが元のデータに完全にアクセスすることを回避できるため、データ侵害リスクが大幅に軽減されます。
2. 調整レイヤー（nilChain）
nilChainとして知られる調整レイヤーは、Cosmos SDKで構築されており、同ネットワークのリソース管理を担う基盤として機能します。同レイヤーは、ステーキングメカニズム、決済処理、ガバナンスなどを担当しています。nilChainレイヤーは調整に注力しているため、スマートコントラクトの運用環境は有していません。
3. ブラインドモジュール
ブラインドモジュールとは、生データを公開せずに安全性の高い計算を行える、開発者に優しい暗号化ツールです。同モジュールには、以下などのプライバシー強化技術（PET）が統合されています。
マルチパーティ計算（MPC）：計算をマルチパーティ（複数の当事者）に分配することにより、単一の当事者による完全なデータセットへのアクセスが回避されます。
準同型暗号（HE）：暗号化されたデータに対する計算を有効化し、暗号化された結果を生成することにより、その後中間手順を公開せずに複合化できます。
ブラインドモジュールは、主に3種類（nilDB、nilAI、nilVM）あります。
nilDB：開発者とユーザーがプライバシーを保護しながら機密データを使用できるようにするカスタム・データベース・ソリューションです。同ソリューションは、データストレージの信頼を複数のノードに分散し、各ノードがデータの秘密を保持することにより機能します。
nilAI：人工知能（AI）で動作するブラインドモジュールです。同モジュールは、大規模言語モデル（LLM）の活用により、強力なデータ保護を備えたAIサービスおよびツールを提供します。
nilVMは、Pythonベースのドメイン固有言語（DSL）を用いて、プライバシー重視のアプリケーションを開発するためのモジュールです。同モジュールでは、ユーザーと開発者がMPCベースの署名を通して複数のチェーンと秘密鍵を安全に管理できるようにすることにより、ブロックチェーン上のやり取りを簡素化できます。
Nillionのユースケース
Nillionのプライバシー重視型の設計は、幅広いアプリケーションに適しています。注目すべきユースケースとして、データストレージ、データ分析、AIおよび機械学習、デジタル署名などが挙げられます。
1. 安全性の高いデータ保存
Nillionでは、組織が機密データを暗号化形式で保存すると同時に、許可を受けた事業体がデータを安全に取得・処理できる環境を提供しています。これは、金融、ヘルスケア、政府機関などの機密データを取り扱う業界で役立つことになります。
2. 暗号化された情報に対するデータ分析
Nillionプラットフォームには、アナリストが暗号化されたデータセットに対して計算を実行できるSecretDataAnalytics機能があります。つまり、組織は、基盤となるデータを公開せずとも機密情報から分析情報を抽出できます。
3. 分散型AIと機械学習
Nillionは、プライバシー保護型のトレーニングと推論を可能にすることにより、AIアプリケーションに対応しています。AIモデルは、データプライバシー法に違反せずとも暗号化されたデータセットを分析できるため、同ネットワークは医学研究、不正検知、顧客分析分野のアプリケーションに適しています。
4. 暗号署名と安全なトランザクション
Nillion署名は、中央集権型機関に依存せずに安全性の高いデジタル署名を実現するために、MPCを活用した機能を備えています。これは、機密性の高い取引の検証を必要とする金融機関や分散型自律組織（DAO）にとって特に有用となります。
5. AIのための検索拡張生成（RAG）
AIのための検索拡張生成（RAG）とは、LLM出力の精度と関連性向上を目的としたAIフレームワークです。RAGは、応答の生成前に外部ソースからデータを収集・統合することにより行われます。Nillionでは、PETをRAGと統合することにより、AI主導型アプリケーションがデータのプライバシーを維持する傍ら、テキストベースの洞察を生成できるようにします。
Nillion（NIL）のバイナンスローンチプール
2025年3月27日、バイナンスはバイナンスローンチプールの65番目のプロジェクトとしてNillion（NIL）を発表しました。ファーミング期間中、BNB、FDUSD、USDCをロックしたユーザーがNILリワードの対象となりました。同プログラムには、合計3,500万NILが割り当てられました。
ファーミング実施後、NILはシードタグ付きでバイナンスに上場しており、USDT、BNB、FDUSD、USDC、TRYのペアで取引できます。
まとめ
Nillionでは、高度な暗号化技術を用いることで、安全性の高い計算とデータ保存に関する興味深いアプローチを提供しています。同ネットワークではまた、ブラインドコンピューティング・フレームワークの採用により、プライバシー保護型AI、暗号化されたデータ分析、分散型ID管理も提供しています。
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