ブロックチェーンユースケース : ガバナンス
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ブロックチェーンユースケース : ガバナンス

ブロックチェーンユースケース : ガバナンス

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公開済 Jun 24, 2019更新済 Aug 7, 2023
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ブロックチェーン技術は最初、ビットコインを支える基幹技術として開発されましたが、今では様々な分野で応用が進んでいます。その中の1つがガバナンスで、分散型システムを活用すれば、公的機関を変革できると期待されています。


なぜ政府がブロックチェーンの導入を検討するのか?

ガバナンスへの応用では多くのメリットが期待できます。政府機関がブロックチェーン技術の導入を検討する理由は、業務の効率化や運営コストの削減に加え、非中央集権性の拡大、またデータの完全性や透明性の向上を促進するためです。


非中央集権性とデータの完全性

ブロックチェーンを構築する方法は数多くありますが、どの方法を採用しても、分散型システムとして一定の非中央集権性を有します。ブロックチェーンのネットワークはノードと呼ばれる多くのコンピューターが管理し、データの確認・認証を同時に行います。ノードは基本的に、データベースの形成に対して合意形成を行い、それによって情報の一貫性を保っています。

このようにしてブロックチェーンのシステムは、高いレベルで不変性を保つことができます。情報へのアクセス権限を制限したり、場合によって情報を修正する権限を制限するために、カスタマイズして利用することもできます。実ケースでは、様々な監督機関が承認者となり、データの共有や確認を行うことも可能です。この仕組みによって、データの改ざんや偽装の可能性を大幅に軽減できるようになっています。

また非政府組織や、大学や一般市民であってもノードの役割を務めることができます。この場合は、非中央集権性がさらに高まるでしょう。さらに、この承認の仕組みを利用すると、データの入力間違いを初めとする一般的なミスを防ぐこともできます。例えば重要な情報が不足しているブロックは、分散型ネットワーク上のノードに承認されません。

他の活用例として、いつかブロックチェーンが投票に利用される日がくるかもしれません。公平でオープンな投票は、民主主義の基本です。ブロックチェーンの不変性の高さは、投票が改ざんされないようにするための解決策として大いに機能するでしょう。投票のセキュリティを向上させるだけでなく、ブロックチェーンはオンライン投票を実現させる可能性も秘めています。米国ウエストバージニア州では2018年の中間選挙で、実際にブロックチェーンを活用した投票を実験しています。


透明性

ブロックチェーンのデータベースは、情報の操作や隠蔽を防ぎ、政府の記録を保護することができます。現在のシステムでは、政府のデータの大部分が中央集権化されたデータベースに保存されており、権限を持つ関係者によって直接管理されています。こういったデータベースには少数の人しか管理に携われないことがあり、情報操作が非常に容易にできてしまいます。ブロックチェーンは、データの保存や承認を複数の関係者で実施し、非中央集権的な効果が期待できるため、ガバナンスにも適しています。

それゆえ、ブロックチェーンは透明性のあるデータベースとして利用でき、政府機関と民間機関の間における信頼性の問題を軽減(または完全に解決) してくれます。実例として欧州には、不動産に関する紛争を減らすため、登記にブロックチェーンを活用できないか検討している機関があります。この仕組みは分散型システムを基盤にしており、政府機関と民間人の両方がデータにアクセスできて、さらに情報の承認も両者が行えるようになっています。また、両者が正式な文書や請求のコピーを安全に保管することが可能です。

非中央集権性を有するブロックチェーンを活用すると、法執行機関や監査組織が汚職や権力の乱用を発見するために、永遠に記録にアクセスすることが可能になります。それに加え、データ共有や金融取引における仲介者を減らし、または完全になくすことができれば、政府の役人が怪しい民間企業に資金を回して悪事を隠すことが今よりもはるかに難しくなります。


効率性の向上

ガバナンスにブロックチェーンを活用しようとするのには、国家機関業務の効率性を最大限に向上させ、運営コストを削減できるという理由もあります。政府は納税者からの税金を資金にしているので、予算をうまく運営することが重要です。ブロックチェーンのシステムやスマートコントラクトを利用すれば業務を自動化でき、官僚業務に費やされている時間やコストを大幅に削減できます。

運営上の無駄の削減に非常に有用である以外に、ブロックチェーンやスマートコントラクトの活用は、一般市民から信頼を獲得して満足感を与えることにもつながります。効率性を大幅に向上させ、コスト削減を進めることで、政府の支持率向上につながる可能性があるのです。またコストを抑えることによって、教育、治安、医療など他の分野に資金を回すことができます。

税金の徴収は、ガバナンスにブロックチェーン技術を活用するに当たって重要な要素です。ブロックチェーンを基盤とする台帳は、あらかじめ決められた条件で容易に資金を移動することができます。これによって税金の徴収や分配、また税法の執行に関するコストを劇的に削減できる可能性があります。例えば、アクセス者を制限したプライベートブロックチェーン上で記録を保存したり、納税申告書を処理すれば、税徴収機関は情報の偽装や個人情報の盗難から納税者を守ることも可能になり、セキュリティの向上につながります。


課題や限界

このように、データの完全性を高めたり、透明性や効率性の向上にブロックチェーンを活用できることは明らかですが、公的機関での利用には限界もあります。

興味深いことに、ブロックチェーンの特長である情報の不変性という特性は、ある環境では欠点になることがあります。データが不変であることは、承認前の情報が正確に記録されることが不可欠です。それには元となる情報が正確であるかを確認する工程が必要になります。

ブロックチェーンは応用できるよう柔軟に設計されている一方で、記録の変更を行う場合は、データの承認を行うノードから多数の賛成(合意)を得る必要があります。これはシステムが非中央集権的であることに対し疑問を抱かせる部分で、ブロックチェーンの利用を拒否することにもつながります。それでもデータ変更時の不便さは、非中央集権性の低いプライベートブロックチェーンを利用することによって解決できる問題でもあります。

また、ブロックチェーンに記録された情報が、アクセス権を持つ人によって永久に閲覧できることに対し、プライバシーを考慮する必要があります。対象となるのは、犯罪記録の抹消のように記録を封印したい場合です。電子化された情報に対して忘れられる権利を法律で認めている国では、法律や判例にそぐわないことがあります。こういった問題に対する解決策には焼却機能や、 zk-SNARKs を初めとするゼロ知識証明といった暗号技術があります。

最後に、政府自体がブロックチェーンを導入する障害となりうることにも触れておかなくてはいけません。まず、政府機関が単純にブロックチェーン技術の価値を理解していない場合があります。これは多くの可能性を無駄にすることにつながるでしょう。極端なケースでは、汚職が蔓延して慣習となっている政府が、役人の利益を守るためにブロックチェーンの導入に反対する可能性があります。


まとめ

このように多くの課題はあっても、ガバナンスにブロックチェーンを活用しようとする事例は存在しています。透明性の向上から税金の徴収プロセスの簡素化まで、分散型ネットワークによって政府は業務をより効率的に行うことができ、市民からの信頼を高めることが可能です。実用段階に至っていないケースもありますが、実証実験を行なっている国はたくさんあります。

ブロックチェーン技術が開発される前の2000年初期から、ガバナンス領域でシステムのデジタル化が行われていたことも知っておくと良いでしょう。顕著な例はエストニアで、まず2002年にID管理の電子化を行なっています。2005年には電子投票を国家として初めて実施しました。2014年には電子国民プログラム e-Residencyを導入し、デジタルデータの管理やセキュリティ向上にブロックチェーン技術を活用しています。