要点
PPPは、異なる国の間の商品バスケットに関する価格調査を行い通貨を比較することで、より購買力の高い通貨の判断を容易にするものです。
PPPは、GDP評価時の調整と世界的な富の分配に関する理解に用いられる理論であり、様々な国における生活水準と経済的健全性をより明確に把握できるようになります。
PPPは、暗号資産分野にも間接的に関連する可能性があります。具体的には、PPPにより、通貨が弱い国に居住する人々が暗号資産やステーブルコインを用いてその購買力を維持する方法に関する知見がもたらされます。
はじめに
米国で10米ドルの商品が他の国ではより安価である理由について、疑問を抱いた経験があるかもしれません。こうした疑問の解消にあたり、購買力平価説(PPP)の概念が役立ちます。PPPは、経済学者が世界中の幅広い通貨の購買力を比較するために用いる為替レート決定理論です。
端的にまとめると、PPPは、幅広い国における財・サービスの自国通貨での購入額を把握するのに役立ちます。ブラジルで1杯のコーヒーを注文する場合やドイツで1足のスニーカーを購入する場合など、場所と財・サービスを問わずPPPは国境を越えた価格比較方法の1つとなります。
以下、PPPの仕組みと世界経済の理解においてPPPが重要である理由について掘り下げていきます。
PPPの仕組み
購買力平価説(PPP)の概念は、一物一価の法則と呼ばれる経済法則に基づいています。同経済法則では、自由競争下において、同一の財・サービス価格は為替レートを考慮した場合にすべての場所で同一となると考えます。
例として、携帯電話を新たに購入するとします。販売価格が米国で500米ドル、日本で55,000円の場合、PPPによると外国為替レートは1米ドルに対し110円が適正となります。この点は、単純に理解できるでしょう。
当然ながら、実生活では複雑性が増します。税金、送料、現地の需要度に応じて、ある場所では財・サービス価格が高価に、別の場所では安価になる可能性があります。このため、経済学者は1種類の品目のみに着目する代わりに、商品バスケット(食品、衣類、住宅、エネルギーなど、さまざま国に居住する人々が頻繁に購入する傾向のある商品を組み合わせたもの)を用いています。同バスケットの価格比較により、幅広い通貨の相対的な強さを把握できます。
PPPが重要である理由
PPPは、経済学者のみを対象にした理論ではありません。現実世界においても活用でき、特にある国の経済と生活コストを測定する場合に活躍します。ある国の国内総生産(GDP)、すなわちある国の生産量について論じる場合、PPPを用いて異なる国の間の価格差を調整することが多くなっています。このようにして、ある国における実際の収支をより明確に把握できるようになります。
インドを例に挙げます。理論上、通常の為替レートを用いた場合、同国のGDPは低く見えるかもしれません。一方、PPPを用いて価格差を調整する場合、同国の生活コストの安さを考慮できるため、その結果に変化が生じます。これにより、同国と他の国の平均所得を公平に比較できるようになり、生活水準の全体的な理解が深まります。
また、国際通貨基金(IMF)や世界銀行などの組織でも、PPP調整後のGDPを用い世界的な富の分配のより明確な把握に役立てています。
生活水準の比較
PPPの持つ最も大きなメリットの1つとして、生活水準の比較に役立つことが挙げられます。現地価格の調整により、自身の給与を用いて幅広い国における生活水準を比較できます。年収50,000米ドルの場合、ある場所では快適なライフスタイルを送れる可能性がある一方、別の場所ではかろうじて生活できるレベルとなる可能性があります。
長期的な為替レートの予測
通貨為替レートは、あらゆる要素(政治や株式市場など)により上下する可能性があります。一方、長期的に見ると、同レートはPPPから考察できるレートに近づく傾向があります。このため、経済学者はPPPを用いて、通貨の長期的な値動きを予測しています。
経済的なごまかしを暴く
時折、政府が公式の為替レートを微調整することで、自国通貨を実際よりも強く見せる場合があります。PPPは、こうした状況において、ある国の通貨が実際価値を反映しているか否かを判断する上で役立つ手段となります。
現実世界におけるPPPの実例:ビッグマックとiPad
ビッグマック指数について、耳にしたことがあるかもしれません。エコノミスト誌により考案された同指数は、PPPをユーモラスかつ簡単に理解するための方法となっています。同指数の概念はシンプルであり、マクドナルドが販売するビッグマックは世界中のどの場所でもほぼ同じ品質であるため、異なる国の間での同価格の比較により、各通貨の購買力を判断できるといった内容となっています。ビッグマックのコストが米国では5米ドルであり、インドでは3米ドルの場合、両国の通貨の価値に関する水準を推計できます。
これに続き、現在までの間にiPad指数やKFC指数などの類似指数が登場しました。こうした日常的な商品を題材にした指数により、PPPが現実世界において担う役割を簡単に理解できます。
PPPの課題と限界
PPPは便利な手段ではあるものの、完璧ではありません。PPPに関連するよくある問題として、商品の品質が挙げられます。例えば、ある国における商品が高品質であるため、比較対象の国の商品と同様に見えても高価格となる場合があります。このため、価格の比較の際は常に「同一条件」とはなりません。
他に考えられる制限として、非貿易財が挙げられます。不動産や地域に根ざした財・サービス(ヘアカットや電力など)は、国際的な取引の対象ではありません。こうした財・サービス価格は、地域の状況に応じて大幅に変動します。
インフレと時間感度も、問題となり得ます。PPPでは、財・サービス価格が長期的に見て比較的安定した状態であることを前提としているものの、インフレが生じた場合、同理論が影響を受ける可能性があります。現在は機能している価格比較が、数か月後には役に立たなくなるおそれがあります。
PPPと暗号資産
購買力平価説(PPP)と暗号資産市場は従来型の外国為替市場とは異なり直接的には関連していないものの、PPPにより幅広い国の人々における暗号資産の捉え方と利用方法に関する知見がもたらされます。
Bitcoinなどの暗号資産は、ボーダレスな資産であり、単一の国との結び付きがありません。一方、(PPPに基づく評価上)通貨が弱い国に居住する人々は、暗号資産の購入費用をより高価に感じるため、このことが通貨の価値の低さに対する潜在的なヘッジとなり得ます。こうした状況は、ハイパーインフレを経験した国において特に一般的となっています。
通貨が弱い国またはハイパーインフレを経験した国では、こうした国における実用的な金融的手段として、購買力を維持できる方法となるステーブルコインを活用しています。ステーブルコインにもリスクが伴うものの、PPPを用いることで、現地通貨をステーブルコインに交換すべきタイミングか否かを判断できます。
まとめ
まとめると、購買力平価説(PPP)は、財・サービスの世界的な価格、所得、経済についての理解を後押しする手段となっています。同理論は完璧ではないものの、各国の経済力の公平な比較に役立ちます。
為替レートの予測を試みる経済学者、価格決定戦略を考案する企業、自国と海外の財・サービスの価格差について疑問を抱く好奇心旺盛な旅行者のいずれに該当する場合でも、PPPを利用する価値があると言えます。
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