Taprootとは何か、そしてBitcoinにどのような恩恵をもたらすのか
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Taprootとは何か、そしてBitcoinにどのような恩恵をもたらすのか

Taprootとは何か、そしてBitcoinにどのような恩恵をもたらすのか

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公開済 Dec 2, 2020更新済 Dec 30, 2021
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概要

Taprootは、2021年11月14日に実装されたBitcoinネットワークのアップグレードです。シュノア署名と並んで、TaprootはSegWitの導入以来、Bitcoinに最も期待されている技術的なアップグレードの1つです。Taprootは、Bitcoinスクリプトの操作方法を変更し、プライバシー、スケーラビリティ、セキュリティの向上を目的としています。これは、Taprootと関連アップグレードであるシュノア署名を組み合わせることで可能になります。

仮想通貨コミュニティに詳しい人なら、プライバシー、スケーラビリティ、セキュリティが大きな関心事であることを熟知しています。Bitcoinは世界で最も人気のある仮想通貨ですが、これらの問題にはまだ対処する必要があります。Taprootは、まさにそれを目指しています。


はじめに

Bitcoinには浮き沈みがありますが、仮想通貨業界をしっかりと支えているアンカーであることが証明されています。富士山の噴火のように、長年にわたって噴出してきた問題はともかくとして。Goxのハッキングや悪名高いBitcoinのハードフォークなどが発生してきましたが、仮想通貨コミュニティはBitcoinに寄り添ってきました。

しかし、見過ごせない問題があり – その1つがプライバシーです。Bitcoinは パブリック・ブロックチェーンであるため、ネットワーク上で行われるトランザクションを誰でも監視することができます。人によっては、それが大きな不安材料となります。
 コインミキシングやコインジョインなどのテクニックを使用して、匿名性を高めることができます。しかし、残念ながら、これらはいずれもBitcoinをプライベート通貨にするものではありません。Taprootもそうとは言えませんが、ネットワーク上での匿名性を高めるのに役立つ可能性があります。 

Taprootのアップグレードは、Bitcoinのプライバシーの欠如やその他の関連する懸念事項を解決するための大きな第一歩として広く期待されています。2021年11月14日、世界中のマイナーの承認を得て、TaprootがBitcoinネットワーク上でアクティベートされました。しかし、Taprootとは何か、そしてそれがBitcoinにどのような利益をもたらすのか?それでは、ここからさらに詳しく見ていきましょう。


Bitcoinネットワークの制約

最初に作成され、最も人気のある仮想通貨であるにもかかわらず、Bitcoinネットワークは、トランザクション速度が遅いなど、ある部分で欠点があります。Bitcoinは当初、1秒間に7件のトランザクションを処理するために作成されましたが、ネットワークの人気と利用者が増加するにつれて、トランザクション速度と手数料も増加しました。Bitcoinネットワークの平均トランザクション手数料は、コインの価格高騰を受けて2021年に約$60と過去最高を記録しました。手数料の高さやトランザクション速度の遅さが、Bitcoinネットワークの発展の足を引っ張っていると言われています。トランザクション容量を強化するため、開発者は2017年に Segregated Witness (SegWit)のアップグレードを実施し、1ブロックに多くのトランザクションを収められるようにしました。しかし、高い手数料が際立っているようです。 

また、プライバシーに配慮していることも制約のひとつでした。Bitcoinのトランザクションは非公開であるとそのホワイトペーパーに概説されていますが、Bitcoinネットワーク上のすべてのトランザクションの詳細が表示できるようになっています。つまり、Bitcoinアドレスを調査すれば、その人の全購入履歴を知ることができる可能性があるのです。 

この制約に対処するため、Bitcoinはネットワークのアップグレードを随時実施しています。しかし、Bitcoinネットワークを修正することは、その分散化された性質上、困難です。どのような変更を実施すべきか、実施すべきでないかを決定するのは1人の人間ではなく、合意を得ることでコミュニティが決定するのです。

Bitcoin Taprootのアップグレードとは?

Taprootは、Bitcoinのスクリプトを改良して、プライバシー、効率、およびネットワークのスマートコントラクト処理能力を向上させるソフトフォークです。2017年のSegWitのバージョンアップ以来、最も大きなBitcoinのバージョンアップと言われています。

Taprootのアップグレードは、Taproot、Tapscript、そしてその中核となるシュノア署名と呼ばれる新しいデジタル署名スキームなど、3つの異なるBitcoin Improvement Proposals (BIP) で構成されています。Taprootは、Bitcoinユーザーに、トランザクションのプライバシー強化やトランザクション手数料の低減など、いくつかのメリットをもたらすことを目的としています。また、Bitcoinがより複雑なトランザクションを有効にできるようになり、特にスマートコントラクト機能やネットワーク上での分散型金融 (DeFi) や 非代替性トークン (NFT) をサポートするなど、Ethereumに対抗できるユースケースが広がる可能性があります。

Taproot案は、2018年1月にBitcoin Core開発者であるGreg Maxwell氏によって初めて発表されました。2020年10月現在、Pieter Wuille氏が作成したプルリクエストを経て、TaprootはBitcoin Coreのライブラリにマージされています。アップグレードを本格的に展開するためには、ノードオペレータがTaprootの新しいコンセンサスルールを採用する必要がありました。最終的には90%のマイナーから支持を受け、2021年11月14日にブロック 709,632で正式にアクティベートされました。


Taprootの仕組みとは?

Taprootのアップグレードを実現するために、3つのBIPが連動しています。BIPはそれぞれ異なる方法で他のものに影響を与え、補完し合っています。

シュノア署名 (BIP340)

シュノア署名は、Bitcoinのネットワーク上でトランザクションを検証するための、より高速で安全な方法を促進します。また、ドイツの数学者であり暗号学者であるClaus Schnorr氏 – が開発した 暗号署名方式で構成されています。Schnorr氏のアルゴリズムは長年特許で保護されていましたが、特許は2008年に正式に失効されました。シュノア署名は、多くの利点の中で、短い署名を生成するためのシンプルさと効率性で主に認知されています。

Bitcoinの生みの親であるSatoshi Nakamotoが採用した署名方式は楕円曲線デジタル署名アルゴリズム (ECDSA) です。シュノア署名アルゴリズムではなくECDSAを選択したのは、すでに広く使用および、理解されており、安全でコンパクトであり、またオープンソースであるという事実があったからです。

しかし、Schnorr Digital Signature Scheme (SDSS) の開発は、Bitcoinをはじめとするブロックチェーンネットワークのための新世代の署名の出発点となるかもしれません。

シュノア署名の主な利点の1つは、複雑なBitcoinトランザクションに含まれる複数のキーを取り込んで、1つの固有な署名を生成できることです。要するに、トランザクションに関わる複数の当事者の署名を1つのシュノア署名に「集約」することができるのです。これをシグネチャー・アグリゲーションといいます。

実際、Taprootでは、Bitcoinスクリプトが実行されたことをすべて隠すことができます。例えば、Taprootを介してBitcoinを使用すると、ライトニング・ネットワーク・チャネルでのトランザクション、ピア・ツー・ピアトランザクション、または洗練されたスマートコントラクトの区別をすることができなくなります。このようなトランザクションを監視している人は、ピア・ツー・ピアトランザクションにしか見えないでしょう。ただし、最初の送信者と最後の受信者のウォレットが公開されるという事実は変わりません。


Taproot (BIP341)

Taprootは、Taprootアップグレードの名前の由来となったものです。2017年のSegWitのアップグレードをベースに、MAST (Merkelized Alternative Script Tree) を用いて、Bitcoinのブロックチェーン上のトランザクションデータ量に応じたスケールを実現しているのです。

Bitcoinネットワーク上のトランザクションは、公開鍵と秘密鍵によって保護されています。ウォレット内のデジタル資産を使用するには、コインを移動させる前に、使い手が本当の所有者であることを証明する署名を行う必要があります。単一署名のトランザクションとは別に、消費者はBitcoinのトランザクションをより複雑にするために、 タイムロックリリース、 マルチ署名 (マルチシグ)、要件など様々な機能を利用することが可能です。 

しかし、こうした複雑なマルチシグネチャートランザクションでは、検証のために複数の入力と署名が必要となり、ブロックチェーンに大量のデータが追加され、トランザクション速度の足を引っ張ることになります。同時に、トランザクション情報が自動的にブロックチェーン上に公開されるため、アドレス所有者の機密データが流出する可能性があります。 

MAST統合後は、1つのMASTトランザクションで複数のスクリプトを表現できるため、必要なスクリプト量と検証量を削減することができます。そのため、複雑なBitcoinのトランザクションがMASTに送られた場合、トランザクションの処理にMerkleツリーは必要ありません。MASTでは、全詳細の代わりに、トランザクションの実行条件のみをブロックチェーンにコミットすることができます。これにより、ネットワーク上に保存する必要のある出来高および、データ量を大幅に削減することができます。Bitcoinのブロックチェーンに大きなスケーラビリティと高い効率性をもたらすだけでなく、Bitcoinの利用者に高いプライバシーを提供します。


Tapscript (BIP342)

Tapscriptは、Bitcoin Scriptを他の2つのBIPに対応させるために、コーディング言語をアップグレードしたものです。オプコードという、実行方法を指定するために使用されるトランザクション指図書の集まりです。ブロックの空き容量が増加することで、新しい機能により柔軟にサポートできるようになり、将来的にBitcoinネットワークがスマートコントラクトをサポートし、作成するのに役立つ可能性があると期待されています。


TaprootはBitcoinにどのようなメリットをもたらすのか?

上述したように、TaprootはBitcoinのプライバシーに大きな改善をもたらし、そのユースケースを強化しました。その他にも、以下のような効果が期待できます:

1. ブロックチェーンに転送・保存するデータ量を削減することで、ネットワークのスケーラビリティを向上させます。

2. ブロックあたりのトランザクション数が多い (より高い TPS率);

3. トランザクション手数料の低減。

Taprootのもう1つのメリットは、Bitcoinネットワークのセキュリティリスクとして知られている、署名のベンダリングができなくなることです。簡単に言えば、署名の可変型とは、トランザクションが確認される前に署名を変更することが技術的に可能であるということです。そうすることで、あたかもそのトランザクションがなかったかのように見せかける攻撃です。これにより、Bitcoinは有名な ダブルスペンディング問題に分散型台帳の完全性の損失がさらされることになります。


なぜ、Taprootのアップグレードが重要なのか? 

Taprootの稼働により、Bitcoinネットワークの機能が向上し、高速かつ信頼性の高いトランザクションが可能になると期待されています。Taproot以前は、Bitcoinのプロトコルはまだレイヤー 1の開発段階にあり、Ethereumのようにレイヤー 2やDAppsで先行していたものもありました。アップグレード後、Bitcoinはスマートコントラクトを展開する道を開拓し、将来的にはトレンドであるNFTやDeFi市場をカバーするユースケースを拡大する可能性があります。 

Bitcoinネットワークが手数料を低減して効率的になれば、より多くのトランザクションと幅広い普及を促すことができます。また、ユーザーはトランザクション時のプライバシーを保持できるため、BTCは市場に存在する他のプライバシーコインとの競争力を高めています。


まとめ

Taprootは、Bitcoinのアップグレードとして期待され、広く支持されています。これがシュノア署名とともに実装されれば、プライバシー、スケーラビリティ、セキュリティなどの面で大きな改善が期待できます。これらのアップグレードは、ライトニング・ネットワークへの関心度を高め、マルチシグの業界標準化を促進することができます。

Bitcoinコミュニティに参加しているかどうかに関わらず、プライバシー、効率、セキュリティの向上という付加価値は、Bitcoinを使用する際に影響を与えるでしょう。